BOOK うたの☆プリンスさまっ♪

□レン×真斗02
2ページ/4ページ

◇ Side真斗 ◇

「もう、あのときには戻れないのかな…」

 筆が紙を擦る音しかしない、限りなく静寂に近い空気を、独り言が乱す。
 おまけに精神までもが乱され、僅かに眉根を寄せて声の主を見た。
 視線が合い、舌打ちをした神宮寺がダーツの矢を放つ。
 しかしそれは、先に刺さっていたものに当たり、床に落ちた。

 苛立ったように髪を掻き毟る神宮寺が、やはり苛立ったままの声を投げてくる。

「オレとは口きかないつもり?」
「そんなつもりはない」

 無視したわけでないのに、またやけに大きい舌打ち。

「品がないぞ」
「へいへい、悪かったね。オレは聖川とは違って、親を気にしていないから」
「な……ッ」
「家のこと、学校でぐらい気にしなければ?」

 震える穂先から、墨が半紙へ落ちる。
 それを見て、ようやくまだ筆を持ったままだということに気付いた。
 自分を落ち着かせるため、殊更ゆっくりと硯に筆を置く。

「どこにいても、父の目はついて廻る」

 全ての習い事も学校での成績も、全て父は知っていた。
 俺が財閥の跡継ぎとして相応しくあるために。

 父の視点で言えば、この学園は財閥の跡継ぎに『相応しくない』。
 それ故今まで以上に厳しく全てを知ろうとするだろう。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ