BOOK うたの☆プリンスさまっ♪
□レン×真斗02
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◇ Side真斗 ◇
「もう、あのときには戻れないのかな…」
筆が紙を擦る音しかしない、限りなく静寂に近い空気を、独り言が乱す。
おまけに精神までもが乱され、僅かに眉根を寄せて声の主を見た。
視線が合い、舌打ちをした神宮寺がダーツの矢を放つ。
しかしそれは、先に刺さっていたものに当たり、床に落ちた。
苛立ったように髪を掻き毟る神宮寺が、やはり苛立ったままの声を投げてくる。
「オレとは口きかないつもり?」
「そんなつもりはない」
無視したわけでないのに、またやけに大きい舌打ち。
「品がないぞ」
「へいへい、悪かったね。オレは聖川とは違って、親を気にしていないから」
「な……ッ」
「家のこと、学校でぐらい気にしなければ?」
震える穂先から、墨が半紙へ落ちる。
それを見て、ようやくまだ筆を持ったままだということに気付いた。
自分を落ち着かせるため、殊更ゆっくりと硯に筆を置く。
「どこにいても、父の目はついて廻る」
全ての習い事も学校での成績も、全て父は知っていた。
俺が財閥の跡継ぎとして相応しくあるために。
父の視点で言えば、この学園は財閥の跡継ぎに『相応しくない』。
それ故今まで以上に厳しく全てを知ろうとするだろう。