BOOK 弱虫ペダル

□東堂×巻島02
1ページ/1ページ


 また夏がやって来た。
 この箱根の山をもジリジリと焦がす、あの暑い夏が。

 高3の夏が終わると同時に渡英した巻ちゃんは、何をしているのだろうか。

 今でも巻ちゃんとは、メールで連絡を取っている。
 と言っても、高校時代と同じく、オレが一方的に送り続けているだけなのだが。

 数日前、巻ちゃんから紅茶の葉が届いた。
 それから、便箋に書かれた、独特な書体での文章。
 『誕生日プレゼントはあと1つ』

 すぐさま礼と共に文意を尋ねるメールを送ったが、未だ返信は来ない。
 もう1つのプレゼントとは、何なのだ?

 チェックアウトを済ませた宿泊客を見送った後、部屋の片付け。
 僅かな昼休憩を済ませた後は、チェックインをする客のために走り回ることになる。
 いくら館内は冷房が効いているとは言えども、これだけ動けば額に汗の一つや二つは浮かぶ。
 チリリ、とカウンターに置いた呼び出しのベルが鳴らされて、女将である母の声に急かされるように走った。

「いらっしゃいま……せ」

 ――何故、ここにいる。

 見習いとして働き出してから仕込まれた挨拶が飛んだのも、無理はない。
 ずっと焦がれて、一時も忘れることのなかった彼の姿が目の前にあるのだから。

「クハ、何てツラしてるっショ」
「巻ちゃ……」
「久しぶりだな、尽八」

 どうして、ここに……。
 やっとのことで搾り出した声は、酷く掠れていた。

「ほら尽八。ボケッとしてないで、お部屋に案内してさしあげなさい。桔梗の間だよ」
「あ、はい」

 条件反射で鍵を受け取って、ニヤリと笑いあった巻ちゃんと母の表情で察した。
 この計画は、オレだけが知らされていなかったのだ。

「巻ちゃん、荷物を」
「おう」

 ずっしりと手に食い込むトランクを受け取って、先に立って歩き出す。
 桔梗の間は、ウチの旅館の中でも、奥のほうにある。
 ここだ、と扉を開いて荷物を置く。
 やっとのことで、巻ちゃんが口を開いた。

「どうして、っつったよなァ」
「あ? あぁ、うむ」
「もう1つのプレゼント、届けに来たっショ」

 そう、意味深長に書かれた、あの言葉。
 その意味を知りたかった。

「夜、この部屋に来いヨ。やるのはその時な」
「う…うむ、了承した」

 さて、巻ちゃんの“もう1つのプレゼント”とは何なのだろうか。


END

2014/08/07


後書き

 時間なかったのだ
 多分その内続きを書くと思われる。
 書いていて「これ、東巻じゃなく、巻東だ」と思ったPart.2
 次はちゃんと東巻に持っていく!…はず

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ