BOOK 弱虫ペダル

□手嶋×青八木03
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「青八木!!」
「(コクリ)」
「行……ッけぇぇぇ――!!」

 腰に触れた手に、グッと力がこもって、トップ争いの集団から押し出された。

 ゴールまでは残り僅か。
 手嶋の作戦通りに駆け引きして、このままなだれ込むかと思われた矢先の“逃げ”。

「チクショウ、あいつ、まだあんなに体力残ってたのかよ!!」
「くそッ、速ェェ!!」

 手嶋に引いてもらって温存した脚は気持ちいいほどによく回る。

 引き離した奴らの悔しそうな声と、手嶋の笑い声に押されて、グイグイ風を切って進む。

 気持ちいい。

 くはぁ、と最後の息を吐き出して、ゴールを切った。
 荒い息を吐き出しながら流して走っていると、遅れて千切った人たちがゴールしてきた。

(手嶋は……?)

 どこにいる。
 この優勝で、オレ以上の功労者である彼は。
 彼は、どこだ。

 流して走りながら後ろを振り返るけど、見当たらない。
 早く早く、早く来い。
 手嶋は、オレと一緒に表彰されるべきなんだ。

 それでも虚しいかな。
 係員に誘導されて、上位三名は表彰のために大会本部のテントにいなければならない。

 じりじりと焦燥感に炙られて、やっとのことで表彰式を迎えた。
 それでも、選手は全員ゴールしたわけではない。
 トップ選手のゴールから一定時間経過後、ゴールという門は閉ざされる。

 たったの10数センチ、その高みにオレが立てたのは、手嶋のおかげだ。
 体力には自信があるものの、ペース配分が苦手なオレをコントロールして、敵の壁を切り裂いて、トップまで連れてきてくれたのは手嶋だ。
 だから、この優勝は、手嶋とオレの、二人のものだ。

 指を1本だけ立てた手をグッと高く掲げると、手嶋も同じように会場の隅から返してくれる。

 オレの名前でもあるこの“一番”は、オレたち二人のもの。


END

2014/03/30〜2014/08/05


後書き

 本気でロードレースについて調べたいと思ったぜ、この話で
 試合事情とか、全然知らねぇもんなー…

 そして手嶋のことを何度『純太』と打ち間違えたか……
 頭の中でT2は名前呼びしてくれてるんだよチクショウ

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