BOOK 弱虫ペダル
□巻島×坂道02
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小野田の首筋が赤い。
一箇所だけとかではなく、全体的に。
さっきから不快そうに首を傾げたりしているところを見るに、こいつぁもしかして。
ぺたりと掌で細い首に触れると、「にぎゃああ!」と可愛くねぇ悲鳴が可愛い口から飛び出して来やがった。
当たりだな。
「ま、巻島さんっ!」
「クハ、見事に真っ赤だなァ」
「うぅぅ…はい」
もう一度突付いてやろうと手を伸ばすも、珍しく察知した小野田に避けられる。
チッ、おもしれぇ反応だったのに。
「小野田も肌弱かったのかァ?」
「あ…はい、そうだったみたいです…」
「自分のことなのに知んねぇのか?」
「あまり夏場は外に出なかったので…」
あァ、そういやそうだった。
小野田は『オタク』というやつだったな。
あれっショ、夏はアキバに行く以外は家に篭ってたんショ。
「あの…巻島さん『も』?」
なんだァ?
今日はやけにカンがいいっつーか、なんつーか。
鳴子にヘンなモン食わされたんじゃねぇだろうなァ。
「あァ、オレもすぐに赤くなるンだ」
「同じなんですね!」
お揃いですね、なんて日焼けで上気したように見える頬がリンゴみてぇで可愛いっショ。
「そのわりには赤くなってませんね…」
オレの背後に回って、首を確認している。
振り向くと、上目遣いと視線が合った。
「あァ、練習前に日焼け止め塗ってンだ」
「そうなんですか。ボクも明日から塗ろうかな…」
◇ ◇ ◇
そんな話をしたのが昨日。
今日もよく晴れて、ロード日和だがその分日差しが強い。
首筋に日焼け止めを塗り終えて、片手で上げていた髪を下ろす。
あっちぃなぁ。
こうやってただ座ってるだけでも、じわりと額やうなじには汗が滲む。
梅雨がまだ来ないこの時期ですらコレなんだ、夏本番が来りゃあ一体どうなるんだか。
「おはようございます」
「ちーす」
「おう」
小野田と鳴子が連れ立って来たが、途中で会ったらしい。
今泉は既に来ていることを告げると、鳴子は猛スピードで着替えだした。
「スカシなんかに負けてられるかぃ!」
まァなんつーか……スプリンターって奴ァ、そういう生き物なんだろうなァ。
誰にも負けたくねェ、それがたとえ飯を食う速度であっても。
オレからすりゃあ、馬鹿馬鹿しいことこの上ないんだがな。
「小野田ァ、ちょっと来い」
「何ですか?」
手招いて呼んだ小野田を、オレと入れ替わりにベンチに座らせて、メガネを取る。
「え、え? 何なんですか?」
視界がぼやけるのだろう、小野田は不安げに両手を伸ばした。
何かに縋るような心もとなさげなしぐさを、可愛いと思う。
「日焼け止め、昨日言ってたやつっショ。塗ってやるよ」
「あ、でも、それなら自分で……」
「慣れねぇうちは、塗りムラができっからなァ」
掌に搾り出した液体を、鼻の頭を重点的に塗り広げてゆく。
のだがしかし。
(コイツの頬っぺた、柔らかすぎっショ…ッ)
小野田の頬が、尋常じゃねぇくらいに柔らかい。
それに加えて、立っているオレに合わせて上を向き、日焼け止めが目に入らないように、ぎゅっと瞑られた瞼。
懐いた子猫のようにオレの手に自分を委ねる小野田を見て、胸のどこかが焼け付くように痛んだ。
反射的にジャージの胸元を握り締める。
「あの、巻島さん。どうかしたんですか?」
ホント、どうしちまったんだろうなァ、オレは。
夏の暑さにヤられちまったのかもしんねぇ。
いや、これは。
同じ熱は熱でも、恋の炎かもしんねぇ。
きっとそうだ。
END
2014/05/30〜2014/07/14