BOOK 黒子のバスケ2

□紫原×氷室04
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『ただいまー』

 画面で光るその文字に、心の中に灯が点った。
 こんな感情は初めてで戸惑ったけど、人を愛しいと思ったのは彼が初めてだから当然と言っては当然なんだろう。

 お帰り、とメールを打とうとして、止めた。
 メールや電話なんかじゃなく、直接言いたい。
 あの甘えん坊な、それでいてオレを甘やかしてくれる、彼に。

 そう思ったら矢も盾もたまらなくなって、コートを羽織っただけで家を飛び出した。
 降り積もった雪をザクザク踏みしめ、アツシがいるはずの寮へ向かう。
 走りたい衝動に駆られるが、ここで走ったら滑って転んでしまう。
 逸る心を抑えて、慎重に歩いた。

 この夏に住み始めた家から学校や寮までは、それほど遠くない。
 雪道を15分も歩けば、よく見知った場所へ出た。
 曲がり角をいつもとは逆に、寮へ向かう方向へ進む。
 あと少しでアツシに会える――そのことが心拍数を上げた。

 寮監のおばさんに会釈して――オレはしょっちゅうアツシの部屋にお邪魔しているから、おばさんとは顔なじみだ――冷たい足に来客用のスリッパを引っかけ、階段を昇って廊下を駆けた。

「ヒムロ!」

 聞き慣れた声がオレの名前を呼ぶ。

「廊下は走っちゃ危ないアル。というか、それ言ったの、ヒムロだったアルよ」
「sorry,劉。ちょっと気が急いちゃってさ」
「アツシに会いに来たアルか」

 それは疑問の形を取っていても、断定していた。
 ついさっき帰ってきたばかりだと言った口調は、寂しげなものが混ざる。

「羨ましいアルよ。ワタシがメールしても、ケンスケは何の返信も寄越さないアル…」
「あー…、」

 それは、と言いよどむ。
 福井先輩が劉からのメールに返信しない理由を、オレは知っている。
 しないというよりも出来ないと言ったほうが近い理由は、堅く口止めされてるので言えない。

「ゴメン、劉」

 オレが謝ったのを、劉は違う意味に捉えたみたいだ。
 ヒラヒラと手を振って、笑んだ。

「また愚痴、聞いてくれるアルか?」
「あぁ」
「いってらっしゃい」

 何かが違うけど、送り出す言葉を言われて、胸が温かくなった。
 手を振り返して、駆け出す。
 逸る心を表すように、人の少ない廊下に足音が反響した。

 アツシの部屋は、一番奥にある。
 長い廊下を、寮生が少ないのをいいことに、一気に走り抜けた。

 アツシの部屋は、ドアが開いていた。

(まったく…)

 寮内だから無用心だと咎めることは出来ないが、それでもドア全開は褒められたことではないだろう。

「アツシ!」
「あ、室ちーん」

 間延びした声が、オレを迎えた。
 大きなベッドに横たえていた巨躯を、アツシはゆっくりと時間をかけて起こす。
 その間にオレは部屋に入ると、鍵をかけてスリッパを脱いだ。

「やっぱり来てくれた」

 ぱぁぁあっ、と嬉しそうに表情が輝く。

「オレ、室ちんに会いたかったから早く帰ってきたんだしー」

 そう、今日は4日。
 練習は始業式前日の7日から始まるので、その日に合わせて帰ってくればいいはずだ。

「会いたかったー。電話とかメールじゃ、全然足りないし」

 長い腕が伸びてきて、オレはその中に囚われた。
 甘えるように胸に頭が押し付けられる。

「ぎゅー」

 擬音と共に、腕の力が一段と強くなった。
 苦しいと思うほどの力に、思わず眉根に皺が寄る。

「ちょ、アツシ…」
「やだ」

 放して、と言いかけた言葉は遮られる。
 欲求のままに抱きしめられて、苦しい。

「寂しかったんだし、甘えさせてよ」
「分かっ…分かってる、から」
「仕方ないなー」

 唇を尖らせたアツシが、パッと腕の力を緩める。
 息を吐いた刹那、強く腕を引かれてベッドへアツシと一緒に倒れこんだ。

「ぎゅー」
「…まったく。しょうがないなぁ、アツシは」

 呆れたようにいつもの言葉を言って、髪を撫でてやる。
 むぅ、とむくれたかのように、紫の目が細まった。

「室ちんはオレと離れてて、寂しくなかったの?」
「え?」
「オレすっげー寂しかったのに、室ちんは平気そうな顔、してるし」
「そんなことは…」

 ない。
 あるわけがない。
 だが、そう断言しても、アツシの瞳は捨てられた仔犬のように揺れている。

「オレだって、アツシと離れ離れで、寂しかったさ」

 そう、オレだってこの愛しい人と離れて平気なわけがない。
 それでも、ごねるアツシを半ば無理矢理に新幹線に押し込んだのは。

「オレが『一緒にいたい』って言ったら、お前は帰らなかっただろ?」
「うん!」
「だからだよ」

 前に訊いたところ、アツシは面倒だからという理由でお盆にも帰らなかったらしい。

「アツシのご両親やお兄さんたちもアツシと会いたいだろ」
「別にそんなことないしー」
「そんなことあるって。そういうものだよ」

 オレが断言しても、アツシは「えー?」と首を傾げている。
 特に、すぐ上のお兄さんとは喧嘩してばかりだというから、実感が湧かないらしい。

「夏休みとか冬休み、春休みしか時間がないんだから、顔を見せてあげなきゃ。特にお正月とお盆は、家族の時間だから」

 ね? とオレは首を傾げて笑った。
 それでもアツシはむくれたままなので、

「ほら、機嫌直して」

 静かに目を閉じて、膨れた頬に口付けてやる。
 アツシの周りにオーラのお花が咲いて、気だるそうに伏せられていた目が、パッチリと開く。

「わ、ビックリ…」
「直った?」
「うん。でもまだ」

 足りない。

 その言葉が聞こえたのと同時に、天地がひっくり返った。
 アツシに乗っかっていたはずのオレの躰はアツシに組み敷かれ、紫の髪の向こうに天井が見える。
 最近伸びたなと感じたはじめた前髪は、衝撃で散らばってしまい、珍しく左目の視界もクリアである。

「ちょ…っと。アツシ、こら、どきなさい」
「…やだよ。もっと室ちんがほしい」

 ガブリと音がしそうな勢いで首筋を噛まれ、躰が跳ねた。
 痛みと熱さが、噛まれたところからジリジリとオレを蝕む。

「オレは、食べ物じゃ…」
「知ってる。でも甘くて美味しいー」

 室ちんは全部甘くて美味しいんだよ――
 そう言うアツシの声は、どこか得意気な色さえ孕んでいる。

「室ちんに会えなかったから、オレ、すっげーお腹空いちゃった」
「…アツシ」
「いっぱい食わせて?」

 答えを求めない問いかけ。
 これにはYES以外、許されない。

「ねぇ、室ちーん」
「いいよ。――オレを食べて」

 焦れたように体を揺らしてオレを呼ぶアツシに、オレは目を瞑って応えた。
 そうでもしないと、羞恥で躰中の血が沸騰してしまいそうだった。
 実際、頬がこれまでにないくらい熱くなっている。

「いただきまーす」

 いたずらっぽい表情で手を合わされ、その手が胸元に置かれた。
 ゴーサインの出た大型わんこ【アツシ】はもう一刻も待てない様子で、剥ぎ取るという表現がぴったりなほどの勢いでオレの服を脱がしていく。

「あーあ、跡、ほとんど残ってないね」

 年内最後の契りの時に付けられた、紅い華。
 胸元で無数に咲いていた紅は、カレンダーの数字が増えると共に薄くなり、今ではアツシの言うとおり、僅かに残るだけである。

「上書きしてあげる〜」

 鎖骨の辺りに、柔らかい唇が押し付けられた。
 何度も何度も場所を変えて、強く吸い上げられる。

「ここにも、してあげるね」

 そう言ってアツシが唇で触れたのは、胸の尖り。
 指でそっと触れられただけでも腰が跳ねてしまうような敏感な場所を、アツシは強く吸い上げた。

「んあぅ!」

 思わず飛び出た嬌声を、両手を使って塞ぐ。

「ダメだよー。聞かせて、お腹いっぱいになるまで」
「や、だ…」
「じゃあー、」

 大きな手が、オレの手首を両方まとめて握りこんだ。
 バスケットボールを片手で掴めるほど大きい手は、バスケで鍛えているはずのオレの腕さえ簡単に拘束できる。
 アツシとしては大して力を込めていないだろうに、オレは指先しか動かせなかった。

「室ちんのおっぱいは…何だろー。コンペイトーかな〜」
「アツシ…放、」
「コンペイトーって、舐めるものだけど、ガリッて噛み砕きたくなる」

“噛み砕く”。
 その行為を自分の躰にされるのを想像して、血の気が引いた。

「やめて…」
「う〜ん、どうしよっかなー」

 ぷっくりと赤く膨れる尖りに、アツシが顔を寄せた。
 上目遣いにオレを見て、フ、と笑う。

「びっくりしたー?」
「う、ん……」
「齧んないよ。でも食べたいな。もう我慢できねーし」

 ほっと息を吐いたのも束の間、大きな掌にオレの局部は包み込まれた。
 痛みと捉えないギリギリの強さで握られ、背筋に電気が走る。

「わ、すごーい。手の中でビクッてなった。けっこー強めにしたのに……やっぱ室ちんMじゃないのー?」
「アツシ、も…っ、お願…っ」
「わかったー。室ちん、ちょっと腰上げて」

 不器用なはずなのに、手早くベルトを外されたことにビックリして、目を瞠る。
 ついでジッパーを下ろされ、あっという間に一糸纏わぬ姿にされた。

「すごいねー、ドロドロになってる」

 蟻の門渡りに触れられ、ヒッと息を呑む。
 オレのソコは垂れた先走りで、女性器のように濡れていた。
 柔らかな会陰は孔がないにもかかわらず、押し付けられた指を呑み込みそうだった。

「ひっ、んん」
「すっげ、エロ…」

 グニグニと、菊座の上を指が押し解す。
 数日使わなかっただけで頑なに口を閉ざす後孔は、それでもアツシの丁寧な前戯で指が3本入るまで解けた。

「もーいっかな」

 ちゅぽん、と音を立てて、指が抜かれた。
 閉じた瞼の向こうで何やらアツシがゴソゴソして、クパリと開いた後孔に熱塊が押し付けられる。

「…挿れるよ」

 耳に、言葉が落とされた。
 僅かに頷くと、腰を捕まえられて、灼熱の楔がオレを割り開いた。
 雁首が肉壁を目いっぱいに広げ、オレのナカを侵食してゆく。

 大きな手で腰を持ち上げられて、最奥まで繋がった。
 ギチギチという音がしそうなほど隙間なく埋まっている。

「――ッ、相変わらずキツイね、室ちんのナカ」

 馴染ませるため、円を描くように腰を回される。
 強い快感はないが、オレのナカを満たすアツシの存在に、充足感を得た。

「アツシ…動いてくれ」
「いいの?」
「あぁ」

 もっとお前を感じたいんだ――
 本人に向かって言えず、心で思うだけに留める。
 だが、それだけに本心だった。
 オレだけのアツシを、もっともっと感じたい。

「んアァァァ…ッ」

 結合が外れるギリギリのところまで抜かれて、それから勢いよく押し込まれる。
 それがまた、何度も何度も繰り返される。

「室ちん、気持ちい?」
「あぁっ、気持ちいい、気持ちいいよアツシ!!」
「もっと気持ちよくしてあげる…ッ」

 アツシはガバッと身を伏せると、オレの胸で赤く主張する尖りを舐めあげた。
 先ほどの愛撫で熱を持つほどに弄られた尖りは、すぐに熱くなる。

 ナマケモノは、ベッドの上でだけ猛獣に変化する。
 そして、鬼畜にもなる。

「ア、ア、もぅ…ダメ、イッちゃう…!!」
「え、ちょ…マジ? オレもうちょいだから我慢してよー」

 根元を指で戒められて、オレは涙と汗を飛び散らせて身悶えた。
 堰き止められた精が、管の中でグルグルと暴れている。

「アツシ、お願いッ、イかせて…」
「ッすげー…、ナカ、超キュウキュウしてる…」

 二度三度と奥を穿たれ、指の拘束が外れた。
 出口を求めて精が迸るのと同時に、薄いゴム越しに放たれたのを感じた――

 ◇ ◇ ◇

「やっぱオレ、来年の正月は帰らない」
「…こら」
「だって室ちんと離れるとか、すっげー淋しいし」
「お正月は家族の時間だって、言ったろ?」
「むぅ…」
「その代わり、アツシが帰ってきたら真っ先に会おうな」


END

2013/12/23〜2014/01/11

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