BOOK 黒子のバスケ2
□伊月×黒子02
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「黒子!」
伊月先輩の澄んだ声が体育館の高い天井に響いて、僕を呼ばわる。
はい、と返事をして冷えた床から立ち上がろうとすると、ぐらりと視界が黒に侵食された。
上体が傾ぐのを咄嗟に手で支えて、しかし練習でへたり込んでいた体は言うことを聞かず、結局肩から床にダイブしてしまう。
「黒子!?」
「黒子くん!! うっそ、いつもよりもかなり数値低いじゃない!!」
ゴンという鈍い音に気づいた先輩たちが次々に呼んでくる声の、ひときわ高いのはカントクだろう。
ぼんやりとする思考の中で、そんなことを思う。
「大丈夫か? 黒子」
「…ぁ」
闇が滲んだような視界の真ん中に、伊月先輩がいる。
迷惑をかけてしまったと申し訳なく思うのに、たったそれだけで安堵した。
「ただの立ちくらみです、すみません」
「…どこがだよ」
「いい加減にしなさい!」
突如、額に衝撃を食らう。
ただでさえ頭がグラグラしているのに、この仕打ちはさすがに…。
それはキャプテンも同意だったようで、猫のように威嚇するカントクを宥めてくれた。
まぁ、そのせいで八つ当たりをされているようですが。
「黒子君はもう今日は練習切り上げなさい!」
「え、」
「今すぐ帰らせたいところだけど、そっちの方が危ないわ」
カントク命令よ。と、誰も逆らえない強権発動で、見学を命じられた。
確かにこのまま帰されるよりかはミスディレクションの根幹ともなる人間観察ができるという点では、幾分マシではある。
「朝から具合悪そうにしていたのに、気付くのが遅くなってゴメンな」
「伊月先輩……いえ、」
「練習終わったら送って行くから、とりあえず汗拭いて着替えな」
「迷惑かけて、すみません……」
倒れた原因はきっと、元々風邪気味だったことと、昨晩風呂上りに髪も拭かずに本を読みふけっていたことだろう。
自己管理もできていなくて、その結果、練習を中断させてしまったし、先輩方に迷惑をかけてしまった。
持ってきてもらった荷物の中からタオルを出すふりをして俯けば、優しい手に頭を撫でられる。
「こういうのはな、迷惑じゃなくって心配って言うんだよ。分かったか?」
「はい……。心配かけて、すみません」
「だったらちゃんと治して、次から気をつけろよ」
伊月先輩はもう一度だけ僕の頭を撫でて、カントクの練習再開の声に、コートへと戻っていく。
……あんな風に特別であるかのように触るから。
うっかり、勘違いしてしまいそうになる。
ようやく回転が収まった目を上げて、コートの中で走り回るチームメイトの中から伊月先輩を見つける。
彼にとって、僕に触れることはきっとなんの意味も持っていないのだろうけど、手が、目が、あまりにも優しいから勘違いしてしまいそうになる。
してしまいたくなる。
「結構つらいものなんですね……」
ポツリと呟いた言葉は、自分でも思っていたよりも沈んでいて。
心配してくれたのか、擦り寄ってくれた2号を抱きしめた。
END
2014/04/29〜2014/08/15
後書き
最初は付き合ってる設定で書き始めてたのに、いつの間にか月←黒になってるー!!と途中で気付いて叫んだぜ……
あっちこっち思考回路を飛ばしてるからこうなるんだよな
とりあえず体裁だけは整って……いるか?