BOOK 黒子のバスケ2

□火神×黒子12
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 ひっそりと鳴る、玄関のチャイム。
 誰が押しても同じ音を奏でるはずなのに、アイツが押したときだけ音が小さく聞こえるのは気のせいか。

 ソファーから立ち上がって、玄関へ向かう。
 その途中で寝こけていると思われたのか、またひっそりと『ピンポーン』。

「よぉ」
「こんばんは」

 玄関をくぐる瞬間、いつもコイツは緊張した表情をする。
 別に取って食やしねえのに、と一度指摘したら、真っ赤になって可愛かった。

 今回もきっちり「お邪魔します」と言い、靴を揃えてから上がる。
 オレのスニーカーは無造作に散らばっているのいうのに。
 サイズもだが、向きもがアンバランスである。

「火神君、すみません。喉が渇いたのでお水ください」

 ただし、こういうところは無意味に遠慮しなくなった。
 以前なら「あの……すみません……」とセリフに点々が何個も付いていたのだから、少しは慣れてくれたのか。

 大ぶりのグラスに冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを注ぎ、更に氷も入れる。
 ソファーに座って待機する黒子に手渡すと、黒子は両手で抱えて一気に半分ほど飲んだ。

「で、何の用なんだ?」

 そう訊いたのは、無理もない。
 晩メシを食った後に珍しく黒子からメールが来たと思ったら、文面が『今から家に行ってもいいですか』だったんだから。

「やっぱり忘れているんですね。本当に、食う寝るバスケしか、頭にないんですから……」
「うるせーよ」

 呆れているのか感心しているのか、どちらか分からない色のない言葉を紡いだ黒子が、カバンを引き寄せて中身を取り出す。

「今日は君の誕生日ですよ。おめでとうございます」

 めったに見られない極上の笑顔と共に差し出されたものを、条件反射で受け取る。
 それから思い出す。
 今日は8月2日――つまりはオレの誕生日だったのか、と。

「サンキュ。でも……何でフライパンなんだ? ありがてぇけど」

 あぅ、と小さく呻いた黒子が、言葉を探すように唇に指を当てる。
 どうやらそこはあまり触れられたくなかったらしい。

 ポツリポツリ紡がれてゆく言葉を要約すると、こうなった。

『前フライパンの加工が剥げだしたと言っていたから』

 ああ、コイツ、すっげー可愛いかも。
 何の気なしに呟いたことを、覚えていてくれたなんて。

 関節が目立つ指で、持ち手を撫でる。
 根元に結ばれたリボンは、血のような紅【あか】。
 それだけが唯一、プレゼントらしかった。

 逆に言えば、それ以外全くプレゼントらしくないもの。
 だが、それがオレのことを考えてくれた証で――

「ありがとな」

 頭に手を置いて、くしゃりと撫でると、黒子は俯かせていた顔を跳ね上げてオレを見た。

「すっげー嬉しい」
「…喜んでもらえて、よかったです」

 ふわりと笑った顔に、きゅんと胸が甘く痛む。

 愛しい。

 衝動のままに引き寄せて抱きしめると、おずおずと首に細い腕が巻きつく。
 目で求めると、黒子の方から口付けてくれた。

 きっと、こういうのが俺たちの一番の幸せなんだろうな。
 そう、思った。


END

2013/07/31〜2014/06/14
 

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