BOOK 黒子のバスケ2

□木吉×日向01
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「日向!」
「……」
「日向ァ」
「だーッ!! うっせぇな!!」

 振り返って怒鳴ると、ここ数日のイライラの元になっている木吉は、嬉しそうに笑った。

「やっとこっち向いてくれた」
「何なんだよお前は!! わざと無視してんのに、ウゼェ!!」
「え……っ。日向、わざと無視してたのか?」
「あーそうだよ」

 気づいてねーとか、どんだけ鈍感なんだコイツは。
 ウザイを頭の中で並べながら、木吉に向き直る。

「消・え・ろ」
「えー?」

 精一杯の低音で呻いたのに、木吉はケロリとした顔で首を傾げる。

「日向のこと、バスケ部に誘いに来たのになー」

 その言葉の響きは、「部」を抜かせばまるで小学生が遊ぼうと言っているようだった。
 更に苛立ちが増す。

「一緒にバスケしようぜ」

 邪気のない笑顔で言われても、荒れてるオレには神経を逆撫でされてるだけ。

「オレはもう、バスケはしない」

 胸に巣食う痛みに抗って、言葉を吐き出す。

 あんなに練習したのに、一度も勝てなかった試合。
 中学時代、オレと伊月は勝利を得たことはなかった。
 あんな悔しい感情はもう、味わいたくない。

 逃げでいい。

(オレは臆病だ)

 自嘲気味に胸の内で笑う。

「もう、バスケなんか好きじゃない」
「何で? バスケ楽しいだろ」
「……勝てたらな」

 一つでも勝てたら、トーナメントの階段を一段でも昇ることが出来たら、オレにとってバスケは楽しいものになっていただろう。
 だが実際には昇ることは出来ず、目の前で扉は閉ざされた。

「『無冠の五将』で『鉄心』のお前なら、負けたことはほとんどねーだろ。だからそんなことが言えるんだ」

 ピクリと眉を動かした木吉に、自嘲めいた言葉を吐いた。

「『無冠の五将』と呼ばれたお前とオレは、違う」

 背を向ける。
 焦がれる視線で木吉がオレを見ていたことを知らずに。


END

2013/05/04
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