BOOK ワールドトリガー

□諏訪×荒船01
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 一瞬だけ俺の唇に触れて、諏訪さんは小さく呟いた。
 やらかした、と。

「なあ荒船、今のノーカンに」
「……ならないですね」
「だよなあ……」

 お互い呆然としながら、何で、と胸の中にあるものを吐き出す。
 何で、諏訪さんは俺にキスをした。

「いや、お前がえらく可愛い顔をしてたから……」
「は?」

 薄っすらまだ煙草の味が残ってる気がする。
 僅かに苦い唇に、指の背で触れてみる。

 何で、大人たちはこの味を好むのだろう。
 換装体でも煙草を咥えているこの人がヘビースモーカーなのは知っているけれど、残った苦味はあまりいい味だとは思えなかった。

「バレちまったと思うから言うけどさ、俺、お前のことが好きなんだわ」
「は、え?」
「けど、どうこうなりてえってわけじゃねえし。なかったことにしてくれ」

 悪かったな、と高さの変わらない俺の頭を軽く叩いて、諏訪さんは資料室から出て行こうとする。
 生身のその腕を、俺は咄嗟に掴んで引き寄せた。

「なあ、待てよ」

 勢いそのままに、唇に噛み付くようなキスを仕掛ける。
 ガチリと歯がぶつかって音が鳴ったのは、慣れてないから仕方ないと許してほしい。

「俺も諏訪さん、アンタのことが好きなんだけど」

 さっきの俺とお揃いじゃねえのってくらい、諏訪さんは赤い顔で口をパクパクさせている。

 もうここまで来たら、引けない。
 血の味が滲む唇をきゅっと噛んで、視線を合わせた。

「俺はアンタとどうこうなりてえって思っちまったし……なあ、なかったことにしないでくれよ」


END

2016/06/02〜2016/06/20

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