BOOK ワールドトリガー

□迅悠一01
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 死人に墓は必要なのか。
 ましてや、死体も残さず灰になって散った人の墓など。

 最上さんはおれを守ってトリオン体を破損し、生身も傷付き、そして、風刃を残して散った。
 だから、最上さんの墓に最上さんの骨はない。

 10にも満たない歳の頃、墓参りの時にそう呟いたおれに答えを与えたのは、林藤さんだった。
 墓は死人に必要なのではなく、残された人たちが拠り所にするために必要なのだと。
 それを今、20歳になった今年実感する。

 今までは墓の前に供えて線香の代わりにしていた最上さん愛飲の煙草を咥え、火を近づけ、吸い込む。
 途端、肺に流れ込む重く苦しい、空気とは全く違う気体。

「う、っぐ、ゲッホ……ッ」

 何これ、すごく苦しい。
 激しく数回咳き込んで、目尻に浮かぶ涙を半分私服も同然なジャージの袖で拭う。
 よくもまあ、大人たちはこれを美味そうに吸えるものだな。

 無風の空へ上り、ゆっくりと消えて行く紫煙に合わせて、視線を上に向ける。

 最上さんは、あの空の上にすら、いない。
 最上宗一と呼べるものは今、彼が残した風刃だけであって、それは今、適合者であれば誰でも使えるように本部で保管されている。
 だから、おれが最上さんを想って空を見上げても、何もない。

 けど、墓の前で手を合わせるよりかは、おれたちらしいかなって。

「ねえ、最上さん。
 おれ、20歳になったよ、成人したよ、大人になったよ。
 咽せちゃったけど煙草だって吸えるし、お酒だって飲める。
 先週太刀川さんに会った時に未来が見えたよ、風間さんと一緒に飲みに誘ってくる未来が。
 最上さんがあの時おれを守ってくれたから、今のおれが在る。
 貴方のお陰でおれは生きられたし、大切な仲間も後輩も得ることが出来た」

 吸い口の端に口唇で触れ、軽く吸い込む。
 さっきみたいな無様な真似にはならず、口の中にためた煙をゆっくりと空に吐き出した。

「……ありがとう、最上さん」


END

2016/04/09

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