BOOK ワールドトリガー
□荒船×奈良坂01
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つ、と細い指が唇に触れた。
いつもは引鉄を引く、俺と同じ狙撃手の指。
1本だけ伸ばされた人差し指は、まるで自分が奈良坂の獲物になったように錯覚させて、瞬間的に違和を感じる。
「……欠片、付いていましたよ」
奈良坂はその細い指を見て己の口元に当て、ぺろりと舐めながら言う。
――お前、やってくれたな。
野菜ジュースを吸い上げながら、片手でサンドイッチのゴミをまとめて立ち上がる。
「少し早いけど、教室戻んぞ」
「……はい」
階下へ戻る階段は、昼休み終了まで少し時間があることもあって、比較的静かだ。
喧騒は、重たい屋上のドアの向こうと、教室のあるフロアからしか聞こえない。
「今日、日直か何かだったんですか」
「いや?」
「じゃあ何で……」
言いかけた奈良坂を遮るように、体を反転させて向き直る。
「今日屋上、人多かったな」
「……そうですね。いつもに比べれば……」
「俺の口、何も付いてなかっただろ」
追い詰めるように一歩踏み出して、耳元で囁いてやると、奈良坂は小さく息を吐いた。
「バレてましたか」
「ったりめーだろ。元攻撃手、現狙撃手の目玉を侮んなよ」
俺も人差し指を伸ばして、奈良坂の唇に当ててやる。
まるで勝手な仕返しだ。
なんて思いながら、引き戻した指先を舐める。
――拙い、間接キス。
「いつも一緒に飯食う時はしてんもんなあ。したかったか?」
「……したかった、と言ったら。いけませんか?」
「いや、上出来」
俺の理性を信用すんなよ、たった1つ上なだけなんだから。
「お前、さっきのエロい目はわざとだろ」
「……何のことですか」
白ばっくれてぼざくから。
そう言い訳をして、塞いでやった。
END
2015/05/22