BOOK 黒子のバスケ
□高尾×緑間04
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緑のケータイが着信音を奏でる。
アイツが勝手に設定したメロディは、高尾専用の着信音。
『もしもし、真ちゃん』
「……何だ」
『ちょっと出て来れない?』
落ち着いた声にまさか、と思いカーテンを開け放てば、曲がり角の向こうから高尾が姿を現した。
一瞬目を瞠り、階段を駆け降りる。
足音を聞きつけてリビングから顔を覗かせた母親に、「友人が用があると言うので少し出ます」と言い捨て、ドアを開けた。
高尾と顔を合わす数瞬までに、弾んだ息を整える。
用事が何であろうと来てくれたことが嬉しくて慌てて出てきたなど、決して知られてはいけない。
嬉しいのは高尾が好きだから、という理由はもっと知られてはいけない。
「ごめんね真ちゃん。こんな時間に……」
「一体何の用なのだよ」
浮かれているのを抑え込んだ声は、自分でも驚くほど低かった。
いけない、これでは不機嫌だと誤解をされてしまうのではないか。
案の定、高尾は曖昧に笑う。
「気持ちにケリ、つけようと思って」
「ケリ……?」
「そ。真ちゃんと気まずくなりたいわけじゃないんだけどさ、」
高尾は大きく息を吸うと、オレを見上げた。
「こないだオレが言ったこと、覚えてる? 好きな人ができた、っていう……」
「……あぁ」
正直なところ、耳を塞ぎたい心境だ。
思いを寄せている人の恋愛話を、誰が好き好んで聞きたいというのか。
「告白するのか」
「うん……」
だから聞いて? と、真剣な瞳がオレを捕らえた。
「真ちゃんのことが好きだよ」
「…………は?」
意味を理解するのにかなりの時間がかかって、数秒の沈黙のあと無声音が漏れる。
「真ちゃんのことが、好き」
その言葉が頭に入った瞬間、顔が熱くなる。
今が夜で良かったと切実に思う。
「やっぱ気持ち悪いよな……」
俯いた高尾が言葉を漏らす。
オレまで胸が塞がるような、苦しい声色だった。
「そんなことはないのだよッ!! オレだってその、高尾のことが……」
「オレが、何?」
勢いよく高尾が頭を跳ね上げる。
「その……」
「言って、真ちゃん」
猛禽類の眼がオレを捕らえて離さなかった。
何かに引き寄せられるようにして、オレは口を開く。
「高尾のことが、好きなのだよ」
真っ赤になって告げた言葉に、高尾は小さく「夢……?」と呟く。
呆然とした表情が少しだけ癪になったので、左頬を思い切り抓ってやった。
「痛ってえ!」
「良かったな、夢ではなかっただろう」
「…そうだね」
ふわり、と微笑んだ表情に、心を奪われる。
すぅ、と静かに息を吸った高尾は、再び口を開いた。
「オレと、付き合ってくれますか?」
「……あぁ」
嬉しそうに笑った高尾が顔を近づけてくるから、オレはそれに応えるために体を屈ませた。
――重なる影は、どんなことがあってもこの想いを貫き通すという誓い。
END
2013/06/18〜2013/06/22