BOOK 黒子のバスケ

□黄瀬×黒子02
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「黒子っちの羽衣って、何スか?」

 黄瀬君の唐突な質問は真意が分からず、僕は軽く目を瞠って訊き返す。

「羽衣…?」
「オレはずっと黒子っちにそばにいてほしいから、だから、」

 ここまで聞いてやっと合点が行った。
 黄瀬君の言う『羽衣』は、『天女の羽衣』のことなのだと。


 昔々、天女が水浴びをしようと、着ていた物を脱ぎ捨てて川に入りました。
 そこへ偶然通りかかった男は天女の美しさに一目ぼれをし、あろうことか木の枝にかかっていた羽衣を奪い取って家に隠したのです。

『羽衣がないと天へ帰れないのです』

 そう言って涙を流す天女。
 男は羽衣のことは知らないふりをして、天女を家へ連れて帰ります。
 そうして男は天女を奥さんにすることができたのでした。

 まぁ、何年後かに天女は隠されていた羽衣を見つけて天に帰ってしまうんですけどね。


「ボクの羽衣…ですか」

 これは思ったより難問かもしれない。

「羽衣を隠してまで、ボクを引き止めたいんですか」
「そうっスよ。青峰っちにも誰にも、渡したくないんスよ」
「…バカですか」

 小さく呟いて、ボクはこの難問に相応しい答えを見つける。

「ボクの羽衣は、黄瀬君です」
「へ?」
「ボクも黄瀬君のことが好きなんで」

 小さく、でもはっきりと言って、黄瀬君に背を向けた。

 どうして表情筋はニートのくせして血は顔に集まるんだ。
 色が白いと、こういうときに不便だと実感した。

「黒子っち、」

 肩を掴まれて、広い胸に引き寄せられる。

「オレも黒子っちのこと、大好きっス」

 蜂蜜色をした甘い声が、耳に吹き込まれた。

「耳真っ赤になってるっスよ。…可愛い」

 真っ赤になっているのは自覚している。
 それでも指摘されると恥ずかしくて、

「ぐぇ!!」

 黄瀬君の顎を両手で押し上げた。
 彼の首から多少嫌な音がしたけど、知ったことではない。

 数歩駆け出して、振り返る。

「早く来ないと、置いて帰りますよ」
「ちょ、待ってくださいっス〜」

 夕日の中追いかけっこだなんて、これを誰かが見ていたら、『どこの青春漫画だ』と思うかもしれない。
 でも想いが届いて、人の目など気にならないくらいに幸せだったから、

「捕まえた!」
「…暑いんですけど」

 もう少しはこの腕の中にいてあげてもいいかと思ったんだ。


END

2013/07/07
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