BOOK ダイヤのA

□降谷×春市02
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「溶ける……」

 帽子を取った手をそのままに、目の前の小湊くんに抱きつく。
 わぁと小さく驚いた声が上がって、小柄な体が少し傾いだけど、倒れることなく受け止めてもらえた。
 長い時間グラウンドに立ってた小湊くんからは、お日様の匂いがする。

「うん、暑いね」
「こらァ降谷ー!春っちから離れろー!」
「……やだ」

 声の大きさに、ツーンと顔を背けて拒絶する。
 たらりと頬を伝った汗は、小湊くんが持っていたタオルで拭ってくれた。

「ほら、降谷くん」

 差し出されたボトルのドリンクを飲んで、小湊くんに返す。
 そのまま同じボトルのドリンクを飲んだ彼の口元が弧を描く。

 間接キスだ……こういうところ、小湊くんはずるい。

「そういや春っち、今日はハグの日なんだって」
「へえ、そうなんだ。ああ、そっか、8月9日の語呂合わせ」

 8と9で、ハグの日?
 語呂合わせと言われると、期末試験で詰め込まれた歴史の年号が浮かんでちょっと苦手だ。

「……ハグって、ぎゅーってすること?」
「うん、まあそうかな」
「僕たち毎日してるね、ぎゅーって」

 僕たちのハグの日って、毎日じゃないの?

「なぬ!?降谷お前、毎日春っちを抱きしめてるのか!?ぬぐぐ……許せん!春っちは俺の親友だ!」
「だめ、僕の」

 俺の、僕の。
 主張する所有格が交互に飛ぶ。

「……あははっ、そうだね、毎日降谷くんとハグしてるね」
「明日も」
「ハグする?」
「うん」

 明日も、明後日も、明明後日も。
 僕が小湊くんを抱きしめたら、毎日がハグの日になる。


END

2015/08/09

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