BOOK BROTHERS CONFLICT

□棗×梓01
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「ねぇ、棗。いつまでゲームしてるの」
「遊んでるっぽく言うな。テストプレイだ、いわば仕事だ」

 コントローラーを操作するガチャガチャという音と、棗の声が重なる。
 1Kのさほど広くない部屋で、梓は手持ち無沙汰に床に座っていた。
 つばきは梓の膝によじ登っているが、あずさは梓と同じく退屈そうに丸くなっている。

「せっかく僕が京兄のお使いで来たのにこの状況って、放置プレイ?」

 唇を尖らせながら梓が言うと、賛同しているのか、つばきとあずさがニャォと鳴いた。
 普段ならつばきが鳴いてから梓が鳴くのに、今日は梓が先か――自分とタマゴ違いの双子と同じ名前の猫たちを頭に浮かべて、棗は後ろをチラリと見た。

 途端、自分が操作するキャラが攻撃を受け、内心で舌打ちをした。
 反撃が間に合わず、画面に浮かぶのは赤い“DEAD”の文字。

(クソッ)

 何回かやっているからといって、油断していた。

「あれ、終わっちゃったね」
「……お前、変な波動とか出してないだろうな」
「そんなこと、できるわけがないでしょ」

 八つ当たり気味に言うと、フ、と気配が動いて、耳元で声がした。
 梓が棗の肩にしな垂れかかっている。
 近すぎる距離に、棗は小さく肩を跳ねさせた。

「椿みたいなことを言わないでよね。ボクはオーラも波動も、何も出ないよ」
「椿【アイツ】に似るとか、最低だから止めろ」
「あはは」

 口元を小さく綻ばせて、梓はまるで少女のように笑う。
 清らかに見えて艶を含んだ表情に、らしくもなく棗の心拍は乱れた。

 ちらりと覗いた前歯を、唇に当てた指は隠しているようで隠し切れてない。
 上目遣いで、恥じらいにも似た表情は、誘っていると確信を持って棗は思った。

「僕夕方から収録なのに、椿に振り回されて疲れちゃった」

 胡坐をかいた棗の膝に、そっと柔らかな手が乗せられた。
 つばきやあずさの肉球にも似た柔らかさ。
 でもそれは、もっと甘美な感触だ。

「充電、させてよ」

 ――止めが刺された。

 こんなの、回避できるわけがない。

 梓は眼鏡を外して、棗の正面に回った。
 首に腕を回してくる梓のせいで、テレビの画面は棗から完全に隠された。
 それでもこの近さで、残る僅かな隙間を自ら埋めないのは、棗からされたいのだろうか。

(チクショウ)

 自らを罵りたいのを堪え、梓の後頭部を捉えて引き寄せた。

 目が完全に閉じきる前に見えた梓の表情が満足そうに見えたのは、棗の願望だろうか。


END

2014/01/18〜2014/01/19

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