BOOK ハイキュー!!
□黒尾×研磨03
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じゃあ。
短くそう告げていつもの曲がり角を折れようとした弧爪を、黒尾は引き止めた。
「これから家来いよ」
にやりとした、何かを企む笑みを浮かべて。
こういう顔を黒尾が浮かべるときは大抵ロクなことがないと弧爪は経験則で分かっていたので若干怯むも、「今日は何もねぇんだろ?」という黒尾の何もかも見透かした言葉に足を黒尾の家の方向へ向け直した。
弧爪は昔から黒尾には嘘が吐けない。
何もかも黒尾が先回りをしていたので、吐く必要がなかったと言い換えることもできるだろう。
しかし、こういう時ばかりはシレッと平気な顔で嘘が吐ければよかった。
どことなく楽しそうな黒尾を一歩後ろから見上げて弧爪は思う。
「ほら、これやるよ」
通い慣れた黒尾の家は、自室と同じくらい弧爪にとって安心できる場所だ。
ベッドに落ち着いた弧爪に放り投げ渡された、両手で抱えるほどの大きさの紙袋。
開けてみろと促されて、テープを切り袋の口を開けると、隣に腰掛けた黒尾を見上げた。
「これ……?」
さらに視線に促されて取り出すと、黒尾は弧爪から取り上げた黒いそれを、部活指定のジャージの上から羽織らせた。
「おー、似合うじゃん」
「どうしたの、これ……」
怪訝そうに小首を傾げた弧爪を間抜けな顔で見た黒尾は、一瞬の間の後に、「ぶっひゃっひゃっひゃ」といつものように笑い出した。
「ねぇ、クロ」
「お前、マジで忘れてるわけ?」
誕生日、お前の。
一音一音区切るようにゆっくりと発音された言葉に、弧爪は茫洋とさせていた視線を目の前に戻した。
「忘れてた……」
幾分気まずげに発せられた言葉に、黒尾は研磨だもんな、と意味深長とも思える言葉を言う。
「ちゃんと着てみろよ」
「うん」
ジャージを脱ぎ、その下に着ていたパーカーも脱ぎ、新しいパーカーに袖を通した弧爪は、あれ?と首を傾げた。
「大きい……。クロ、サイズ間違えた?」
「いんや、ちょうどだな」
でも、と一回り大きいことを見せるように黒尾の眼前に差し出された弧爪の手は、先ほどまで着ていたものよりも大きな面積が長い袖によって隠されている。
「ナイス萌え袖。それから猫耳!!」
「え、猫耳?」
素早くフードを被せた黒尾は、あらかじめ起動させていたスマホのカメラモードで弧爪の写真を撮ると、機体をひっくり返して画面を弧爪に見せた。
「ちょっと何コレ!?」
映っている数瞬前の自分の画像を見ると、弧爪はハッと両手を頭の上にやった。
頭の形に沿って丸いはずの布に、違和感がある。
一対の三角の耳が、頭の上で小さく主張していた。
「可愛い可愛い」
「クロ、その写真消して」
「イヤだね」
消せ、消さないの押し問答。
それは痺れを切らした弧爪が黒尾のスマホを奪おうと、膝に乗り上げたことで状況が変わった。
「スキあり」
頭上に掲げた己のスマホを囮にしながら、もう片方の手で細い腰を抱きこんだ。
一気に近づいた距離を更にキスで縮めようと、黒尾はニヤリと笑った。
――部活に授業に、毎日忙しい恋人たちへ。
――束の間の甘い時間を、プレゼント。
END
2014/10/16
後書き
研磨祝誕に可愛らしい猫耳カチューシャの研磨をもらったので☆
三人称難しいなチクショウめ……