BOOK ハイキュー!!

□月島×山口01
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 本当の意味でいなくなって困る人はいないと思う。

 例えば、一国の首脳が死んだとしよう。
 当然国は大騒ぎになる。
 でもすぐに代わりが立てられるデショ?
 ホラ、元の首脳はいなくなっても困らなかった。

 国のトップでもそうなのに、誰が一介の高校生でしかないボクを必要とする?
 そんな人、地球が逆立ちしても出てこないよ。
 つまりボクは必要ではない。

 そんな風に思考が陥ったとき、ボクはカッターを握る。
 腕を伝う紅い血を見て、安心してしまう。
 生きたいわけじゃないのに。
 多分、切る行為で無為に行き続けるか死ぬかの回答を先送りにしてるんだと思う。


 そうボクが言葉を紡いで、宙に漂わせていた視線を戻すと、山口はソバカスが浮いた頬に幾筋もの涙の跡を残していた。

「ちょ…ッ、何で山口が泣くの」
「だって……」

 そのまましゃくり上げたので、ボクはティッシュを押し付けた。
 濁音混じりの声で礼を言って、山口は洟をかむ。

「もう一度、見せてくれる…?」
「…別に、いいけど」

 左腕を突き出すと、山口は慎重な手つきで袖口のボタンを外して、肘まで捲り上げた。
 赤いものから古くなって茶色く変色したものまで、幾重にも重なった傷のうち、真新しい赤いものをそっと指先でなぞる。

「……痛い?」
「それなりにね」

 痛ましげに眉根が寄るから、慣れてると告げれば、歪んだ眉が泣きそうな形になった。
 そんな表情、させたかったわけじゃないのに。

「ツッキーは、自分が誰にも必要とされてないって思うんだ…?」
「うん」

 父親も母親も、ボクを愛するのは義務だろう。
 この世の親子関係は、全て義務で動いている。
 そうでなければ、誰が子育てなどという面倒なことをするものか。

 突如、山口がスッと腰を上げて、ボクの前に立った。

「おれはツッキーのことがすごく大切。いなきゃ寂しい」

 必要とは違うけど、と山口は言った。
 おれにとって“居てほしい”存在、だと。

「ツッキーのことが、大好きだから」

 今まで山口に大好きと言われたことは何回かあったが、それよりも重さがあった。

 指を絡めて握られた左手から温もりとココロが伝わったから、信じたいと思った。
 信じられると、思った。

 山口なら、ボクを変えてくれるんじゃないか、って。


END

2014/01/12〜2014/01/19
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