BOOK 黒子のバスケ2
□日向×伊月01
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「えいッ」
そんな声と共に顔の横を何かがすり抜けて、同時に焦点の合わなくなった視界でかけていた眼鏡を奪われたのだと理解する。
「うわ、キツ…」
「…返せ。視力悪くなんぞ」
「んー」
数学の問題集から顔を上げて言った言葉は怒気を孕むものだったのに、次の瞬間には心配するような声音になっている。
伊月はオレの言葉を聞き流して、どこか考えるような音を出した。
「な、似合う?」
「…見えん」
「え!? この距離で見えないとか。日向どんだけ視力悪いんだよ!?」
「お前の顔がぼやけるくらい」
「それ答えになってないし…。じゃ、こんくらいで見える?」
そんな言葉と共に、輪郭のぼやけた伊月が、ミニテーブルの上に乗り上げるようにして顔を近づけてくる。
さっきよりもずいぶん近くなった距離に、オレはふと悪戯心が湧いて「まだ」と答えた。
「んしょ……これで見える?」
「あぁ」
鼻先が触れそうなほどに近づいた伊月の首根っこを押さえて、唇を合わせた。
すぐそばにある顔が、じわじわと朱に染まる。
「な…ッ」
「似合うぞ、眼鏡。でも返せ」
「うん……」
広げた問題集の上に突っ伏した伊月の後頭部を見て、してやったりとオレは笑った。
END
2013/03/04