BOOK 黒子のバスケ

□宮地×高尾01
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 いつもの練習後。
 ラッキーナンバーの数だけシュートを撃つ緑間の後姿を見つつ、オレも自主練。
 入部当初の対抗意識は、未だに燻っている。

 今日は7と9だったのだよ。なんて聞かされた回数は、まだ半分も終わっていない。

 人に見立てたコーンの合間を縫ってドリブルそしてレイアップシュート。
 頬を伝った汗を、引っ張ったシャツの首のところで拭いた。

 そんな時に掛けられた声。

「高尾。ちょっと来い」
「何すかー?」

 何気なさを装っていても、その声にはどこか不機嫌さが滲み出していて、見に覚えがなくても萎縮してしまう。

 一瞬だけ視線をよこした緑間が、つまらなさそうに溜息をついてまたシュートを撃った。
 高く弧を描く放物線は今日も変わらないなーなんて思っていると、また声が飛んでくる。
 うぅーッ、今日の宮地サン、何か怖ェー。

 小走りに近寄ると、腕を掴まれた。
 そのまま体育館の出口へ向かう。
 出口で宮地サンがバッシュを脱いだので、それに倣った。

 靴下のままで体育館の裏に出る。
 小さな石とかが足の裏を刺激して、痛い。

「宮地サ…」
「黙ってろ」

 強くデコボコの壁に背中を押し付けられて息が詰まった。
 顔の横に宮地サンの両手がきて、いわゆる壁ドンの体勢になる。

 苦しげに眉根を寄せた宮地サンが舌打ちをして、小さく開いた唇が、汗の伝う首筋に押し当てられた。
 チクンとした痛みが、呼吸を挟んで何度も与えられる。
 血液が皮膚を通り越してしまうのではないかと危惧するほどに。

「ちょ…ッ。そんなトコ見えるって!」
「黙ってろっつただろうが」

 鋭い眼光に射抜かれる。

 ああもう訳が分からない。
 いっそ黄昏時の夢にしてしまいたかった。

 でもそれが許されるはずもなく。
 竦んでしまったオレを嘲笑うように、ゆっくりと唇がオレのそれに近づけられる。

 少し湿った口唇に食まれ、力が抜ける。
 綻んだ隙間から、舌が差し込まれた。

 思うままに蠢き、オレを蹂躙する舌。
 逃げるオレの舌を追って深く侵入してきたとき、オレは仕込まれた反射で音を立てて吸った。

 いい子だ、とでも言いたいのか、汗で濡れた髪がへばり付く頬を撫でられる。
 硬質な指の動きが気持ちよくて、体の横に垂れていた腕を宮地サンの背中に回した。

 口内に誘い込まれて、ジンと舌が痺れるほどに強く吸われる。
 その行為が立っていられなくなるほど気持ちよくて――

「…っは、」

 解放された瞬間に地面にへたり込む破目になった。

 もちろん宮地サンが手を貸してくれることはなく、酸素を求めて大きく喘ぐオレを不機嫌な表情で見下ろしてるだけだ。

 数度肩で息をし、膝に力を入れて立ち上がる。
 回復が早いのは部活での練習の賜物だろう。

 ふらついて1歩下がったオレを一瞥して、宮地サンは背を向けた。

「戻ンぞ」
「え、ちょッ!」

 慌てて距離を詰める。

「ホント何なんすかいきなり。つかこんな跡…明らか見えるじゃないすか!」
「見せるために付けたんだっつの。こんだけあからさまだったら、いくら緑間が鈍くても気付くだろ」

 は?
 何でここで緑間が出てくる?

 疑問を隠しもせずに顔に出すと、宮地サンは暗い表情の下で小さく笑った。

「オマエ練習中ですら緑間見すぎなンだよ。…それでオレが妬かねーわけがないだろ」
「緑間は相棒っすよ」
「分かってるっつーの。それでも気に入らねー」

 寄せられた眉の下の目が、甘い苦しさを孕んでいたから、オレは「ハイ」と頷いたんだ。


END

2013/08/09〜2013/08/10

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