BOOK ダイヤのA

□降谷×御幸06
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 ツンとした刺激臭と一緒に、透明な液体が小さな筆で爪の表面に塗られてゆく。
 そっと爪を撫でられる感触が擽ったくて、ぞわ、と背中が震えたら、御幸センパイに「動くな」って言われた。

「……すみません」

 ――いつからだろう、御幸センパイが僕にこうして優しくしてくれるのは。

 右利きの僕が右手にマニキュアを塗るのは、難しい。
 出来ないことは無かったけど、初めて塗ったとき、御幸センパイは僕のムラになった塗料でデコボコな爪を見て、ヘタクソって笑ったんだ。

 御幸センパイは上手に塗れるんですか。
 その時確か僕は、そんな風に言ったと思う。
 当然だろって不敵に御幸センパイは笑って、キレイにマニキュアを落とした僕の爪を塗り直してくれたんだ。

 僕の手がまるで壊れ物であるかのように大切に扱うから、御幸センパイの手の動きに合わせて心臓がドクンドクンと音を立てて、その度にぎゅう、って苦しくなった。

「なーに考えてんの」

 いつの間にか塗り終わっていたらしい。
 唇が触れそうな距離で爪にふう、と息を吹きかけられて、また背筋がぞわりとなる。

「はは、やらしい顔してる」
「…………」
「指先だけで感じちゃった?」
「責任取ってください」
「まだ待て、だ。爪が乾いたらな。何かに付くと大変だし」

 意地悪く御幸センパイが唇を三日月にして笑うから、危惧された爪が何かとくっ付いちゃわないように気をつけて上体を倒した。

「……無理です」

 どうやら僕は、待てが下手らしい。


END

2014/11/01〜2014/11/02

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