BOOK ダイヤのA
□御幸×沢村02
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「沢村……嫌なら、逃げてくれ」
低く掠れた御幸の声が、くっ付きそうなほど近くにある俺の唇の上で溶ける。
湿った吐息は感覚をムズムズとさせて、擽ったさに似たものを覚えて俺は引き結んだ唇を小さく動かした。
今からキスをする。
その意志は、この体勢になる前に御幸の口で告げられていた。
「嫌なら、蹴ってでも殴ってでも。……お願いだから、逃げてくれ」
珍しくメガネを外して、コンタクトも着けてねぇのかな。
裸眼の目がフッ、とツラそうに伏せられる。
ゆっくりと近づいてくる御幸の顔。
距離がゼロになる前に、音が動いた。
「逃げて、くれよ……」
でも、しっとりと唇が重なっても、俺は逃げなかった。
されているのと同じように御幸の背に腕を回して、キツく抱きしめる。
「ごめんな、沢村……。好きになって、ごめん」
俺もごめんなさい。
御幸のことを好きになってごめんなさい。
好き、って言えなくてごめんなさい。
想いは吐息と一緒に、御幸の中に吸い込まれて消えた。
END
2014/09/29