BOOK ダイヤのA
□降谷×御幸02
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ドンッと、壁に背中が押し付けられる。
寮の便所、しかも狭い個室の中じゃ、どこでも大して差はねぇけど、もうこれ以上逃げ場所がないということが、恐怖に近い感覚を味わあせる。
「ちょ…ッと待てよ降谷。俺、早く風呂入りたいんだけど」
「後で。入ってもどうせ汚れるんですから」
「だからその『汚れる』行為をしたくねぇっつってんだけど!?」
「大丈夫、御幸先輩はキレイです」
「話通じてるか!?」
やっべ、逃げたい。
けど、こんな薄い壁のすぐ向こうに人がいる状況で騒いだら……。
「気づかれたく、ないですよね」
試合直後の興奮のまま、ケダモノみたいな目で射抜かれる。
何もかもを見透かすような――
「バスの中で、ずっと我慢してました。もう限界です」
いつかと同じような状況、でもそのときよりかはずっと俺の手首を握る力は弱い。
加減してるんじゃなく、本人ですら気づいてねぇけど、握力が一時的に下がってる。
今日の投球は力入ってたもんな――
そんなことを思いながら試合を振り返っていると、いつの間にか視界が降谷で埋め尽くされていた。
「だから、しねぇって!!」
「……僕はシたい」
アンダーウェアの首元を引っ張られて、噛み付かれる。
ジワリとした痛みが降谷の熱を伝えて、うっかり流されそうになってしまう。