BOOK ダイヤのA
□クリス×御幸01
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青道の1年生天才捕手。
俺はそう呼ばれてたりもするけど、どこが天才なんだよ。
才能なんてねぇよ。
あるのは、肩の強さだけ。
俺は、オレよりも遥かに上手い人を知っている。
シニア時代には、何度も対戦した。
それでも一勝すらできなかった相手。
その人こそ、ホンモノの天才だろ?
俺にはクリス先輩みたいな才能なんてないから、努力するっきゃねぇ。
今は俺が正捕手なんだから。
あの人が戻ってきたときに、少しでもトーナメントの高い場所にいられるように。
同室の先輩たちを起こしてしまわないように、そっと部屋を出る。
真っ暗な外を歩いて、向かった先は、雨天練習場。
ここなら少し距離はあるし、便所に起きたやつとも鉢合わせしたりはしないだろう。
照明のスイッチを1つだけ押して、ごく狭い範囲だけを明るくする。
次の対戦相手のスコアブックは、ここんところ毎晩のように見続けているせいで、ページの角がよれてしまっている。
正直、夜中まで起きてるのはキツイけど、才能がない分、オレは頭を使わなきゃ。
「夜更かしは感心しないぞ、御幸」
「へ?」
トントン、と肩を叩かれる。
うわぁと情けなくも上がりそうな悲鳴を咄嗟に当てた掌で殺して、そうっと後ろを向いた。
「クリス、先輩…」
「このところ毎日だろう。寮で噂になっているのを知らないのか?」
「え、マジっスか?」
「嘘だ」
マジか……この人、冗談言うのかよ。
知らなかった情報に、少し、胸が高鳴る。
「だが、みんな知っているぞ」
そして、このままでは体を壊すのではないかと心配していた。
そう告げられても、にわかには信じられない。
だって、バレないようにしていたのに。
「お前に倒れられては、困るぞ。それだけで青道の大損失だ」
「……俺なんて」
声が震える。
一年で肩が強いから、騒がれてるだけだ。
あとは小賢しい戦略を立ててるだけ。
実力は、宮内先輩の方があるだろう。
経験も長いし、投手の力量や癖だって分かってる。
「すまないな、御幸」
「へ…?」
「お前をここまで追い込んだのは、ある意味俺のせいだ」
「ちが…っ、それは違いますクリス先輩!!」
クリス先輩は、チームのために無理をして、肩を壊したんだ。
俺だって、毎日目で追っていたというのに。
監督以上にクリス先輩を見ていたというのに。
…何も、気づけなかった。
「お前は頭がいい。最近集中力が落ちてるのは、自分でも分かっているだろう?」
「……練習ではちゃんとしているつもりなんですけど」
「俺の知っている限りで、今日蹴躓いたのは4回だ」
出た、クリスメモ。
一体どれだけの情報がその小さなノートに詰まっているのか気になるところだけど。
「頭の良さは、武器だ。だが、睡眠時間が足りないと鈍る。もう部屋に戻って寝ろ」
左手が、力強く俺の手を掴んで立たせた。
出口まで行って、電気のスイッチを切る。
「…待ってください」
まだ、ここから出るのが怖い。
いつもどおり、飄々とした自分を演じきれない。
ここで誰かに出くわしたら。
「御幸、」
低い声で囁かれて、人肌の温もりに包まれる。
クリス先輩が、片腕だけで俺を抱きこんでいた。
「お前には負担をかけてしまう。だが、全力でサポートするから……」
頑張ってくれ。
感情を消した言葉に、涙が零れた。
誰よりも上手いのに。
誰よりも試合に出たかっただろうに。
そっと頭を撫でられたら、頷くしかなかった。
END
2014/05/23〜2014/07/03