BOOK ダイヤのA

□クリス×沢村01
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 初めて指導役として組んだときは、まだ沢村は2軍で。
 たった数ヶ月でよくここまで成長したもんだと思う。

「ナイスボール」

 今日はこれで終わりだと、マスクを外しながら言えば、沢村はまるで犬が尻尾を振るかのような勢いで駆け寄ってきた。

「今日は全体的に良かったぞ。コントロールも比較的安定していた」
「マジっすか!!」
「比較的、だがな」

 それでも、ボールばかり出してる普段を思えば、上々な内容だっただろう。
 ありがとうございました! と礼をした沢村の、少し汗ばんだ頭を撫でてやる。

「……ッ!?」
「どうかしたのか?」
「撫でられた……」
「嫌だったか?」

 犬に対する躾けは、いいことをしたら撫でて褒めてやること、悪いことをしたらすぐその場で叱ることだと、亮介が言っていたのだが。
 一般でも言われていることだし、犬っぽい沢村の躾けには役に立つと思ったのだが。

「とんでもない!! …じゃなくて、えーっと、」
「何だ」
「クリス先輩、もっと……」

 撫でてください。
 猫のそれに似た、大きなくりっとした目が俺を見上げる。
 まっすぐな視線に思わずたじろいで、それを隠すように強く沢村の髪をかき混ぜた。

「わ、ぷ」
「まったく…お前は子供か」
「違いますよ!!」

 ぷくりと膨らんだ頬を突付きながら、それを子供のようだと指摘して。
 そしたらいっそう膨らんで。
 今度はまるでリスだ。

「クリス先輩!! 明日もいい球投げれたら撫でてください!!」
「……あ、あぁ」
「へへっ」

 どんどん成長していくこいつを、早いうちに御幸に渡さなくてはいけない。
 何度もそう思うのに出来ないのは、きっとこの笑顔のせいだろう。

 俺に向ける、年相応の顔を可愛いと思うから。
 慕ってくれるコイツが愛しいと思ってしまうから。


END

2014/06/20

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