BOOK ダイヤのA

□倉持×亮介02
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「兄貴、いる? ちょっといいかな…」

 ちょっと宿題で分からないところがあったので、兄貴に訊きにいった。
 同室の先輩たちは不在なのが運悪い。

「お邪魔します……」

 中から声がしたから、そのまま返事を待たずにドアを開けた。
 その直後には浅はかな行為を後悔することになる。

「あ、春市」
「……兄貴、」

 何してたの、なんて訊いてはいけない雰囲気を感じて、思わず黙る。
 多分ここでうっかり触れてしまえば、冷たい黒笑がむけられるだろうことは経験上理解している。

「りょ、亮さんありがとうございましたッ!!」

 弾丸のごとく飛び出してきた倉持先輩は、かろうじて避けられた。
 けど、これって試合のときよりもスピード出てるんじゃないかな…?

「春市、入って。何か用があるんでしょ?」
「うん……宿題、教えてほしくて」

 テキストを見せると、「数学か」と兄貴は小さく呟いた。

「さっき倉持とそれの応用をやってたところなんだよ」
「俺、邪魔した?」
「いや、別に」

 あっさり捨て斬られて、これ以上の追及は許さないと雰囲気が語る。
 けど、だからこそ、倉持先輩の赤かった顔はなんだったんだろうと思った。

「気になる、って顔してる」
「え?」

 頬をつつかれる。
 俺と同じくらい小さい手は、努力の代償として硬い。
 俺も見習わないと……。

「もう逃げてばかりはいられないな、ってこと」
「兄貴は、やっぱり倉持先輩と……」
「違うよ?」

 気づいてるけど、はぐらかしてるだけ。
 倉持の気持ちも、自分の気持ちも。

「けど、もう逃げられない」

 そう呟いた兄貴の顔がいつもとは違っていて、俺にまで切ない気持ちがが移った気がした。


END

2014/06/16

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