BOOK オリジナル

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「ねぇ…、噛んで?」

 掠れた声で紡がれた私の“お願い”に、Tは目を瞠って小さく無声音を漏らす。
 私はそれに肩口を晒すことで応えた。

「噛んで? 跡が欲しいの」

 かろうじて疑問形を取ってはいるが、それはお願いでしかない。

「痛いだろ」
「いいの。欲しい」

 欲に濡れた瞳を向けると、彼は仕方ないとでも言うように息を吐いて顔を寄せた。

 薄い皮膚に歯が埋まる感触。
 それは私の求めていたものとは違うくて、『物足りない』と目で訴えた。

「ん…っはぁ…、」

 艶めいた吐息が零れるのを止められない。
 肩口から脳へ伝わる痛みは、私の求めていたものと全く同じだった。

 焼けていない白い肌に浮かぶたくさんのキスマークと、たった今つけられたはがた。
 それを見て、私は唇を笑みの形に持ち上げる。

「ありがと。ねぇ、大好きよ…?」

 痛みが欲しいだなんて、狂っているかMかしか思えない。
 でもそう思われたっていいんだ。
 だって私は心だけでなく躰までTのものなのだから。


END

2013/07/08

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