BOOK オリジナル
□03
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(金、土、日…)
指を折って数えた。
もう3日、自傷行為をしていない。
しなくてはいけないものでもなく、むしろしてはいけないことなのだが、気になり始めると無性に線を刻みたくなる。
(何でなのかなー…)
親に嫌みを言われたわけでも、学校で嫌なことがあったわけでもない。
今日は月曜日であるけれど、土曜日にあった授業参観の代休で休みだ。
あぁ、そうか。
頭の中で延々と回る、K先生の彼女と別れた理由。
――「2年も経てば、愛も冷める」
ちょうど、私とTも付き合い始めて2年が経つ。
そんなことはない――そう自分に言い聞かせようとするも、思考を駆け回る言葉は止まってくれない。
つい自分たちに重ねてしまて、勝手に不安になった。
(嫌だな、こんな思考回路)
何の根拠もないこと。
でも否定材料も見つからない。
そのことが私を不安にする。
もっとポジティブに物事を考えられるといいとは分かっている。
だが、分かっているからといって出来ることではない。
(感情なんて、消えてしまえばいいのに)
眼鏡を外しているせいでぼやけた視界で、手が机の上を彷徨った。
透明と緑のリスカ専用と化したカッターナイフを取り上げ、刃を押し出す。
まだこの行為を始めてから1ヶ月しか経過していないというのに、切りすぎて鈍くなった刃は2回ほど折られて短くなっている。
(やっぱ100均のじゃダメか。OL●A買ったほうがいいかな…)
錆の浮き出た刃を眺め、溜息を吐く。
買ってから数ヶ月しか経っていないのに、もう刃には帯状の錆が浮き出ていた。
チキチキと音を立てて刃を出したり戻したりする。
安物のイヤホンを突き抜けて鼓膜に届くこの音が私は好きだ。
右手のカッターを左手に持ち替えて、肌に押し付けた。
ひんやりとした感覚が、細い線となって脳に伝わる。
(また怒られちゃうな)
そんなことを脳の隅っこで思いながら、そっと手を動かした。
ピリリとした痛覚が躰を襲い、私は少しだけ開いた唇から吐息を漏らす。
切った箇所をむにっと摘まむ。
ヘタレな性格のせいで深くない傷口が開き、遅れて血液が滲む。
そこへ唇を押し当て、キスマークを作る要領で強く吸った。
通常ならば内出血の跡が出来るものだが、傷から血液が滲み出て口の中を鉄錆の味に変える。
痛覚が快感とニアリイコールの私には、勿論それだけでは物足りず、更なる快感を求めて2本3本と傷を増やす。
(もっと血ィ…)
5本目からは数えるのを放棄した。
傷に傷を重ねるせいで、たった今切った場所さえも分からなくなってしまうのだ。
処女地を侵すような感覚で傷のない箇所を切ると、体育の授業の際に包帯で隠しきれなくなる。
(あー。こりゃ風呂で沁みるな…)
切るときの一瞬の痛みは快楽を感じるが、後からズキズキと痛むのは好きじゃない。
だからドMじゃないんだけどなー、と、ことごとくドMと出た心理テストに心の内で文句を言う。
これで最後。
なかば八つ当たりのように切った線からは、すぐに血が滲んだ。
END
2013/05/14