落書き回廊☆時々SS

□Dcafe break
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【Dcafe break】



冬の寒い時期に描いてたシャーペン画



休日の散歩道、行きつけのカフェで一休み
「いらっしゃい」と物憂げに言うのはバイト大学生の奈良シカマル
二度目の接客で何故だか名乗りをあげられ、つられた私も自己紹介させられた可笑しな店員だ

「いつものラテでいいんすよね。ラテマキアート」
「ああ、頼む」

小窓から漂う珈琲の香りに、ホッと一息つく
手慣れた男の流れる指先に暫し見とれて、ハッとそれに気づけば急に顔が熱を帯びる
私は誰にも気取られぬよう頬杖をついて、通りに視線を向けた

車の入れぬ遊歩道はあまり人通りは無く、眺めるものといえば沿道の脇に咲いた小さな花くらい
私の世界を色づけるには、慎ましやかなそれで十分だった

ついた肘の脇に、そっと置かれた泡立つラテマキアートと添えられた小さなケーキ

「これは頼んでないが」
「それはいつものサービス」
「違う、そっちじゃない。なんだこの…」

ミルクの泡一杯に描かれた大きなハート。しかも、ご丁寧に名前入りの矢まで刺さっている
それをじっと見て、私は「ああ、これもサービスか」と小さく呟いていた


「あー、ちげーから。そっちは………気持ちっす。だから、頼む、飲み込んでくれ」




****

来るだろう日を予測して、必ずシフト入れて
バイト仲間のシノもオーナーのアスマもこの時間だけは専属にしてくれて、お気に入りの席を空けて待ってて
めんどくせぇがピカピカに拭き掃除して、綺麗に咲いてる鉢植えは小窓に集合させてる

サービスにかこつけた自腹のケーキも、最初こそ嫌がられたが今では機嫌良く満面の笑みで「美味しい」なんて言って受け入れてくれてよ

なのに、何でだ。一向に彼女は俺の気持ちに気づいてくれない
考えるに、サービスも試作品か何かだと思っていそうだ

そんな見えない努力では彼女には伝わらないと分かった末の強攻手段がこれだった
言った本人が言ったそばから顔赤らめて絶賛後悔中だ

気持ち悪がられてもう来てくれネェかも…やべぇ、俺、間違いなくやらかしてる…言葉チョイス間違えたような…
何だよ“飲み込んで”ってよぉ…一歩間違えたらエロセクハラじゃねぇかっ!バカか俺は!
いや、一歩間違えなくてもセクハラだろ…これ…

何も言わない彼女の顔を盗み見る限り怒ってはなさそうだが、俺の背中や掌には既に変な汗が大量に吹き出していた
俺のやらかした感あふれる姿にか、アスマもシノも憐れみの視線を寄越してくる

今の救いは、目の前の彼女が急に微笑んだことだ
あーくそ可愛い、けど、けどよ、そろそろ何とか言ってくれよ。じゃねーともう体がもたねぇよ

「悪いが、この矢は飲み込めない」
「えっ…」
(何だコレ…俺、泣きそう…奈良シカマル十八歳ここに散る…かよ)

「そう何本も飲み込めるかっ。顔が熱くなって敵わない」
「…ハ?」
(何言ってんだ…?)


「もうとっくに胸に刺さってるよ、安心しろ。私はそんな鈍感ではないぞ」


「……マ、ジかよ…」
「これもサービスだとあそこで言ったら、帰ってやろうと思ってた」
「…へ、?」
「意気地無しは嫌いだ」
「ハハッ」
(やべぇ、強攻手段は正解だったのか!)

「この後、お前の予定が無ければ何処かで話そうか…?」
「一時間で行く」
「そんなに急がなくていい。バイト終わらせてからーー」
「んや、速攻で行っから。ま…待ってろ…あ、いや、待ってて下…さい」
「待ってろでいいよ…ふふ」
「…お、おう。待ってろ、行っからよ」


「じゃあ、遊歩道の先の藤棚の下で待ってる。花はまだ先だけど、私の好きな場所なんだ」



-end-

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