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□sweet
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放置蔵漁り☆いやこれ諸々のくだりを他の作品に使ったような…
なのに何故漁り出してきたかって?素直にごめんなさいします〜100%甘え♪
胸を張って言います!一、二を争う初期作です(言い訳乙です笑)


拍手御礼作品E[sweet]



桜の季節もとうに終わり、目にも鮮やかな新緑が太陽に照され匂い立つようなそんな季節。
木の葉の里は穏やかな陽気に包まれて、方々至る所で眠気に誘われているよう。

店先の椅子で、店主がコクリコクリと舟を漕ぐ。
人目も憚ることなく、甘味処の長椅子で膝枕する恋人たち。
路地から出てきた猫も、大きく伸びをして欠伸する。

「よい季節だ…」

テマリは、阿吽の大門の傍らに佇んで、行き交う人々を見渡していた。
髪や頬に感じる心地よい風に自分の気も緩みそうだと、微笑を浮かべ心で呟いてみる。

ぽかぽかと温もった心持ちで、油断をすれば欠伸の一つも出てしまいそうだ。
それはいかんと何気に視線を向けた視界の端に、見たくもない要らぬものが痛みと共に引っ掛かる。
テマリは緩んだ心を、きつく締め上げた。

また違う女か。よくもまぁ…

前に訪れた時は、この子ではなかった。
確か、明るい髪色だったことは覚えている。
しかし今回の娘は青色の肩までの髪。
半年ほど前は、確か…黒、いや、茶色だったか。

顔などはよく知らぬ。
目の端に掠めるほどしか見ていないのだから。

ただ言えるのは、テマリの三ヶ月毎の来訪と共にいつも違うという事だった。
知る限りでは、三ヶ月もたないという事らしい。





会議が予定より早く終わり、テマリは案内役のシカマルに伴われて宿へ戻っていた。
今回の議題の話しをしながら一つ目の角を曲がると、書店の前に雑誌を立ち読みするイノがいた。

シカマルが厄介だと言わんばかりの有り様で、胡散臭げに声を掛ける。
イノは食い入るように見ていたファッション雑誌から、嬉々とした顔を上げた。

「きたきた!ここで待ってたら、会えると思ってましたー!」

どうかしたのか、とシカマルが尋ねるが、質問を受ける気はないようで、茶屋へ行こうと誘うばかり。しかも、テマリだけを誘っている。
テマリは案内役のシカマルに窺いをたて、イノと行くことにした。
勿論、この様なことは初めてで、シカマルは元よりテマリも大いに訝しいんではいる。

しかし、大変な会議も無事に終わり、後は明朝の帰還を待つ身。
気分転換など必要ないが、他里での空いた時間、やることも特には何も無い。
テマリは木の葉の陽気に少し当てられたなと、締め上げた心がまた緩むのを、迂闊にも寛容してしまった。

シカマルはイノに任務の邪魔をするなと文句を一つ二つ言って、不機嫌な顔を隠さず何度も振り返り去っていった。





シカマルと二人よく行った甘味処とは違い、そこは豪奢な白亜の建物で、若い女の子が好む所謂、洋風茶屋であった。

「でも辺鄙なところにあるから、穴場なんですよ」

イノの言葉を、テマリは微笑んで受け取る。
さぁ行きましょう、とテマリを促して、イノは入口へと続くアプローチを先導して入っていった。
テマリはふと、木の葉で茶屋に来たのは、久しくなかったことに思い至った。

あれから…、シカマルと行くことは無くなったからな…。

庭が見渡せる窓辺の席に着くと、可愛らしい制服に身を包んだ店員が、水を持ってやってきた。

「ここのお勧めは、モンブランなんですよ」

イノはメニューを開かずに、身を乗り出して言う。
テマリは持ちかけたメニューを元に戻した。

「じゃあ、それをいただくよ。それと紅茶を」

「私も同じで」

店員が去っていくと、イノは唐突にシカマルの話しを始めた。
ここに来る道中は、コスメや食べ物の話しをしていたのに。
テマリは一つ、溜め息が漏れた。
「最近のシカマルは…」から始まって、シカマル、バカマルと話しは続く。

いったいなんなんだ。
あいつの女関係など、私には関係のない話しじゃないか。
それとも、下世話な話でもしろというのか。
あいつの話しなどしたくない。

女が違う?ああ、知ってるさ。
三ヶ月…え、一か月もたないのか。

…ふん、だからなんだ…もうそんな話し聞きたくない。

目の端に留める程度で、胸がズキズキ痛いんだよ。
忍びたるもの、不要な感情は切り捨てるべきなんだ。

木の葉は甘い。
こんな感情は自己完結できる。

「テマリさん、きましたよ」

ハッとして顔を上げたことから、さっきまで何処か机の端を見ていたことに気付く。
返事はしていたつもりだったが、途中から記憶がない。
視線は定まっていただろうか。虚ろだったろうか。

「美味しいな」

でしょでしょ、と言ってイノは嬉しそうに笑う。
可愛いな、イノは。あいつの隣の《一か月の女》たちも、そんな可愛い顔で笑っているのだろう。

もう九ヶ月前になる。
シカマルに告白された。
シカマルの気持ちに応えることは出来ないと、私は言った。

そう、振ったんだ。

応えることは出来ないが、私は奴を想っている。
心の向くまま走ることは、私には出来ないから。

この心の内は、ひた隠して。
口に出して言ってしまえば、私自身が保てなくなる。

イノはシカマルが心配なのだろう。
けど、奴が自ら何とかせねばどうしようもないだろう?

私はそんなに甘くないよ。

早口で捲し立てるイノは普通の女の子のように、笑ったり、口を尖らせてみたり。また笑ったり。

私も、そんな笑顔で笑ってみたいな…。
そんな風に、素直に生きられればな…。

笑ってみるか……

馬鹿か、私は…

ありがとな、と言って綺麗に笑ってみた。

「てまりさん。そんな悲しい顔しないで」

ポロリと一粒、涙が頬を転がり落ちて、テマリは息が止まるほど驚いた。

涙など、子供の頃にとうに失くしたと思っていた。
一粒零れ落ちたが、それに続く涙は瞳の奥に消え去った。

「振ったテマリさんが、振られたみたいな顔してるのは、どうしてなんですか」

イノの投げ込む言葉は、心に波紋を作る。
テマリはイノが知っていることに、驚いて目を見張った。

「お前、…知っているのか」

「シカマルの様子がおかしくなったのは、テマリさんが帰った直後だったし…すいません、私がしつこく聞き出しました」

「…そうか」

なんだかモンブランが味気無くなったな…。

テマリの手が止まったことを気にすることもなく、イノは勢い付けて捲し立てた。

「あいつ、テマリさん以外は、誰でもいっしょだって。断ったところで、どうでもいい、すぐ終わるんだからって。面倒臭くないのかって聞いたら、別に何も考えてないから面倒じゃない…とか言ってて。結局女の子が泣いちゃったり揉めちゃったりで面倒になってて、支離滅裂ですよ。何を言ってんだかさっぱりです。面倒じゃないなんて、あいつが考えるのやめたら、あいつじゃなくなっちゃうじゃないですかっ」

ふぅ…。参ったな。

テマリはズキリとこめかみが痛くなったが、手で押さえる衝動は抑えた。
代わりに、忍びの表情を取り戻し、感情を抑制した。

「言いたいことは分かったよ。でも、どうしようもない。私はアイツを受け入れられないんだから」

イノは真っ直ぐにテマリを見る。
それを穏やかな顔で見返す。
暫し、無言で時間が流れ、沈黙を裂いたのはイノだった。

「こんなに愛されてるのに?」

ああ、受け入れられない。

「私には立場があるんだよ」

イノが直ぐに言い返す。

「それは愛では乗り越えられませんか?」

「住む世界が違う」

「二人なら飛び越えられませんか?」

「決断したんだよ」

「恋心って揺れ動くもんじゃないですか」

「撤回できない」

「あんなあいつを見ても?」

テマリの言葉は出て来なかった。

「胸が苦しくても?」

もう…

「涙が零れたのは、嘘じゃないはず。それが真実じゃないですか」

「…もう、……やめてくれ」

穏やかではあるがピシャリと言ってのけると、イノは息を吸い込むように口を閉じた。
テマリは窓の外をぼんやり見つめ、イノは飲み込んだ言葉を心で反芻を繰り返すように唇を震わせている。
張り詰めたような空気が流れる中で、イノは大きな瞳にいっぱい涙を溜めると、テーブルに拳を力任せに置いた。

「おせっかいなのは!十分承知してます!でも!でもこんなのおかしいから!」

言ってる傍からポロポロと涙が零れて、イノは俯いてしまった。
滴り落ちる涙は一向に止まらない。
暫し、その光景を黙って見詰めて、食べかけのモンブランを残したまま、テマリは静かに席をたった。

俯くイノの肩にそっと手をやり、

「お前が泣くことないよ。ありがとうな」

それだけ言って、会計を済ませ、来た道を一人帰った。







大きな純和風の門構えの前で、テマリは玄関先を睨み付けるように立っていた。
イノと別れて一人考えた挙げ句、宿には戻らずにここに来てしまったのだ。

来たはいいが、居るのかどうか。
いや、今日は自宅待機だと言っていた。たぶん、居るのだろう。
でも、例の彼女とやらが居るかもしれない。

どうしたものか…
やはり、帰ろうか…

テマリはイノに心を動かされてしまった自分を窘める。

シカマルの問題だ。
ふった男の素行など、私には関係無い。

…関係、無いのか?

ある。私の想い人だ。

ああ、私はどこまで奴に甘いんだ。

感情を抑制する忍びの心と、思うままに好いた男の元に行こうとする女の心が交錯する。

自分を保てなくなる。
厳しい世界に身を置く、明日をも知れない身だから。
しかし、惚れた男の心が悲鳴をあげて、私の言葉を待っている。

忍びとして、一番やってはいけないこと。
自分を晒す…、そんなことは出来ない。

テマリは定まらぬ感情を持て余し、いまだに一歩が踏み込めないままでいた。
ダメだ、よそう、そう思って踵を返して歩き出すと、突然、声が掛けられた。

「テマリさん?」

振り返ると、シカマルの母、ヨシノが買い物袋を両手に持って立っていた。
こうなる以前は、来訪すると将棋を指しに来ていたので良く知っていた。

「シカマルなら居るわよ」

そのつもりで来たのに、笑顔でそう言われると躊躇してしまう。
そんな逡巡を察したのか、ヨシノは入るようにとテマリの背を押して、玄関から大声でシカマルを呼んだ。

「シカマルー!ちょっと来なさーい!」

「なんだよ、醤油なら買って…」

シカマルは近くに居たようで直ぐに現れると、玄関に立っている二人を見て言葉を失った。
上がってもらいなさい、ヨシノはそれだけ言い残して、シカマルの脇からさっさと家の中に入ってしまった。

取り残されてバツが悪いのか、テマリが目を合わせると、シカマルはヨシノの背を追うように目線を逸らした。

「どうしたぁ?なんかあったかぁ」

「いや、」いや?違うな、話しはある。

テマリの顔色を盗み見て機微を感じ取ったシカマルは、あらぬ方を向いたまま眉根を寄せて怪訝な顔をしている。

はぁ…困った奴。

「お前は、どうしたいんだ」

ややあって、問うた言葉にシカマルから唸るような奇妙な声が漏れる。

「お前は、やたらと女を取っ替え引っ替えしているらしいな。何故、そんなことをする」

シカマルは途端に玄関の上り框に腰を下ろし、俯いて頭を抱えた。

「私には関係ないか?」

「……イノか」

「ああ。イノは私のせいだと思っているぞ」

シカマルはテマリを見ずに、顔を更に俯かせた。
顔は下を向いて見えないが、不貞腐れてるんだろう?
私には分かっているさ。

シカマル。男らしく、私を見返せよ。

「イノだけじゃない。皆が思っているだろうな」

「……」

「お前は私を悪者にしたいのか?」

「そんなこと思ってねぇ」

「なら、改めろ!」

精悍な声音に反応して咄嗟に顔を上げたシカマルを、テマリは真っ直ぐに見詰める。

あれから、初めて正面から見たな。

間抜けな面、しやがって。

あ、また、…俯くな、馬鹿。

シカマルは頭を抱えて再び下を向くと、聞き取れない声でぶつぶつと呟いている。
それを許すまじと目線を合わせる為に屈み込んで、シカマルの膝頭に両手を置いた。

顔が、近いな…

「ちけぇよ、」シカマルもそう言って頭を抱え廻した腕で、今度は顔まで覆おうとする。

「あ、こら、」

シカマルの腕を掴み、こっち向けと言わんばかりに無理矢理に視線を合わせる。

睨み合う。そう、それでいいんだ。

「シカマル。一度しか言わない」

テマリはゆっくりとシカマルの腕を放して、目を見て言葉を紡いでいった。

「もう、そんな情けないことをするな。想う人は心に一人いればいい。男らしく観念しろ」

シカマルの顔は強張って、とてもモテるなんて思えない顔をする。

「そんな顔をするな。私は受け入れられない、と言ったはずだ」

シカマル、泣きたいのか?

私も泣いているのか?

そんな顔で私の頬を撫でるな…やめてくれ…

テマリは、口火を切った本心に自分が保てなくなるのが分かった。
それでも、伝えなくてはいけないのだと優しく言葉を吐き出した。

「シカマル。どんなに偽っても、恋しいって、心は泣くもんだよ。

今は愛し合うことは出来なくても、想い合うことはできるはず。

想い合っていれば、いつか受け入れられる日が来るかもしれない。
いや、その日は来ないかもしれない。

それがズルいと思うならそれでいい。私のことをズルい女だと嫌いになればいい。

けど、お前の気が済むまでは…心が泣くと言うなら私の胸で泣いてくれ。
私を見ろ。私はちゃんとここに居るから」

ああ、私は何してる。
でも、大事なこの男が壊れるのは嫌なんだ。

「難儀で意固地な私を諦めるなら、男らしく一人、心の中だけで泣いてくれ。自分を見失うな。

それでも想うというのなら、私を見ろ。私の心を、目を、見返してみろ」

私たちの間には色んなことがありすぎるから。
素直じゃない私には、簡単には受け入れられないんだよ。

「シカマル、よく考えなよ」

「ああ、あんたを手に入れるくらいいい男んなって、あんたを拐いにいく。んでよ、そん時は、あんたにあれこれ言い訳させねぇくらい、デカイ男になってっから。

あんたも泣くのは俺の胸だけだ」


恋心は移り変わるらしいから。
想い合っていれば、大きな愛になって。

未来は笑い合えるさ。

私はどうやらお前には甘いらしい。



-end-



オマケへ続く
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