★2017テマ誕★
□to me…A
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** To me,
〜 In the case of shikamaru **
結局、昨日はてんやわんやで、シカマルは深夜まで火影邸に詰めることになった。
テマリが快く送り出してくれたとはいえ、デートの途中放棄に責任も感じる。
渡りに舟か足元を見られてというべきか、何処かで事情を聞きつけたサクラとイノが多額の女子会の軍資金を募りに来て、テマリを宿に一人で居させるよりはと、その恐喝じみた申し出に二つ返事で応じることにした。
「で、…楽しくなかったのか?」
「え?…なに?…何が?」
なのにどういう訳だかテマリは心ここに非ずで。
詫びるつもりで宿に訪ねて行ったまでは良かったが、会うなり視線を合わせようとしなかった。
「ああ…あの映画は…、なかなか…」
そこでテマリは上ずりそうな声を改めようとか、一つ、引っ繰り返り気味のおかしな咳払いをして、
「お、奢って貰っていてなんだがァ、なかなか楽しいとは言いづらいものがあったかなァーって、…ハハッ」
視線を泳がせ、無理に笑ってみせる。
シカマルは、テマリの良く分からない態度に困惑しながらも、原因となりそうな些細な事柄を、身に覚えがないなりに頭の中で考えていた。
「すまなかったな…俺のリサーチ不足だ。あの映画は、期待させたわりにイマイチだったな」
その話じゃないんだが…。
「…シカマルのせいじゃ…ないよ」
昼を跨いで三時間という長丁場。耐えに耐えたラストで二章へ続くと来たもんだ。
映画が飛んでもない駄作だったことが理由であれば、この気まずさも解決しようがあるが、如何せん映画館に入る前からだから謎なのだ。
「あれは詐欺だな…訴えてもいいくらいだ…ぞ?」
テマリは普通に喋っているようでいつもの覇気がない。
もしかして体調が悪いのか?そう思いついたら、のらくらと悠長に構えていられなくなった。
「映画…、それもそうなんだが。…なんつーか…、その…なんだ…」
淀めば淀むほど、言い出し難くなるのは道理。
ここはサラッと、
「昨日、サクラたちとメシ、行ったんだろ?楽しかったか?」
「あ、ああ、女子会のことか?勿論、……楽しかったぞ」
「そうか…、なら…いい」
イヤ、良くない。サラッとし過ぎてまったく分からない。
なら、どうしてそんな態度をして寄越す?しかもその、楽しいって単語の前の間はなんだ?
「体調…」
「隊長?…任務か?」
「いや…、違う。なんでもない…」
するとテマリは、何かを思い出したのか、突如、思い出し笑いを表情に含ませた。
シカマルには、隊長の何にオモシロ要素があるのかサッパリだ。
「そうそう、聞いたぞ。お前に余計な気を遣わせてしまったようだな。まぁそのお蔭で、皆で二次会にカラオケ行かせて貰ったよ」
ああ、そのことか。
「ありがとうな」
含み笑いのテマリは、相変わらず何処か余所余所しいものの、徐々にいつもの態度を取り戻しているようにも見える。
シカマルはそろそろ良い頃合いかと、並んで歩くテマリの宙ぶらりんの手を、自然な成り行きで取ることにした。
「そうか。そりゃ良かった…な」
そう、近頃はこうすることが当たり前で。
今日、初となる手をば握って、。
「ひァッ!」
「って、ええ?!」
静電気か?!否、今は夏真っ盛り!!
まさか、握った途端に半歩飛び退かれようとは思いもしなかった。
「やっぱオカシイぜ、…今朝からどーも様子が、」
「ハァア??何もオカシクなんかないっ!急だからっ!いつもより急だからっ!ちょっと驚いただけだっ!」
そう言って何故だか慌てるテマリは、跳ね除けたシカマルの手を自らキツく握り取った。
「急って…、いつもと変わんねぇと思うけど…」
「今から何処へ行くんだ?!あッ、あれだ?!昼ごはんだッ?!」
「なんか、話し逸らされてねぇか?」
「バッ、バカ言うな!私はお腹がペコペコなんだっ!そ、そうだっ、態度がオカシク見えるならそのせいかもなっ?!」
早く早くと言わんばかりに、テマリはシカマルの腕に身体を押し当て、行く先も分からない道を先導して進もうとする。
「ちょ、ちょっと」
胸ェ、当たってる…って。
「ホラッ、さっさと行くよっ!まだランチタイムに間に合うだろ?!」
テマリの不可抗力と分かっていても、プニプニ攻撃は効果覿面。
そんなに身体を押し当てたら、柔らかい物が腕に当たって敵わないと、いまだテマリの態度に納得出来ないシカマルをも黙らせた。
「で、何処向かうんだ?!アッチ?それともアッチかな〜?」
テマリの足は、前方の三叉路を商店の多い方へと進んでいく。
シカマルはそれを足を止めることで引き止めた。
「あー、と。違う、今日は……俺んち」
押しつけられた胸が離れて残念ではあるがホッとして。
今度は飛び退かれはしなかったが、テマリのビクついた身体が、明らかに動揺を隠し切れていなかった。
「行く道で甘味屋があるから、昼は好きなもん買って、家で食えばいいだろ?」
シカマルは自由の利く右手で、ポリポリと頭を掻く。
「夕飯は…、俺が腕によりを掛けて作ってやるから、」
お前の好きな、栗ご飯。
準備は万端、整っていた。だが、言い掛けて止したのは、所謂これが顔面蒼白か。
言葉を無くしたテマリの顔から、みるみる血の気が引いていくのが分かった。
「ま、待て待てッ!お、お前んち?!お前ンチだと?!オマエンチ?」
反応遅くね?!
しかも、お前んち何回言ってんだ?!
「ああ、問題ねぇだろ?」
テマリは漫画のように、ブンブンと大きく頭を二度ほど横に振った。
「そりゃ問題だろっ!私は他里の人間だぞっ!外で会う分にはまだ問題ないとしてもだッ、だ、だからッ!、、オ、オ前の、オ、オ母上に、オ、オオ驚かれてしまうじゃないかッバカッ」
後半持ち堪えられず、らしくもなく吃りまくる。
「そこは問題ねぇよ。母ちゃん居ねぇんだわ」
「ブァカかッッ余計にマズイわッ!!」
殴りかからんばかりのテマリの勢いにたじろいだ。
驚くシカマルの顔を見て、テマリはしまったという顔をする。
「あ、イヤッほらっ、だから…居ない隙をつくみたいで後から気マズイだろっ?」
「あー、その事なら大丈夫だぜ。母ちゃんにはとっくに言ってあることだからな。今回は先約で会えねぇが、いつも早く連れて来いってうるせぇのなんのって」
シカマルはこのデートを思いついた時、自宅に招待すること、自分が料理することを、テマリならきっと面白がってくれると思っていた。
なのに、予想に反して本気で嫌がって見えて。
「ひ、引きこもる…のか?」
「ンア?引きこもるって…なんだそれ…?」
そんなに嫌か?
何、そんなに心配してんだ?
「テマリがイヤなら、止してもいいが…」
「イ、イヤとかッ!イヤとかそんなことじゃないッ!」
「無理しなくていいって」
「ムリ?!無理なんかしてるかッ!!私は常識的判断でお母上がいない隙にというのがだなァ、」
「何も、とって食やしねぇよ」
売り言葉に買い言葉みたいなものだった。
シカマルの言った言葉に大した意味はなく、しかし、その一言でテマリは電池の切れた人形みたいに止まり、赤くなって黙り込んでしまった。
「へ…?」
あっ・・・
こうなるとシカマルにも分かる。
最初の時こそ自身のことで精一杯だったが、付き合ってみると、この年上の彼女の恋愛に対する奥手具合は並外れていて。
テマリのいつもの大胆さは鳴りを潜め、人を見透すような眼力も、雨に濡れた子犬のようになるのだから。
「あーもう、アンタって人は…」
考えてみれば、テマリは箱入り。傑出した風影一族の長子で、砂のお姫様だ。
シカマルも奥手だなんだは、人のことを言えた義理ではないと承知しているが、滅多に見せない逃げ腰のテマリが可愛くて、可愛くて。
そーかそーか、恋人の家に二人きりがそんなに緊張すんのか。
今までだって、二人きりで執務室に籠ったりしてただろうに。そりゃ任務だけどよ。
テマリは俯き、頬を染めて瞳を猫のようにクルクルと回す。
あータタタ、クソッ、可愛すぎだろッ
心臓に来たッ
「ーース、少し。少し考えさせてくれ…」
そしてテマリは、一段、声を落として口の端で呟いて。
「昨日の今日だろ……こ、こころの準備が…まだ…」
「ココロの?」
耳を寄せつつ、何とか聞こえた蚊の鳴く独り言を拾って、少し苛めたくなるのは男の性。
「ウ、ウルサイッ!こっちの話だッ!」
逃げ腰、浮き腰、及び腰。
喩え方は数あれ、そんな姿に自分がさせているということに、シカマルは男としての自尊心を掻き立てられた。
「じゃ、問題ねぇな。行こうぜ」
「ハァ?!な、何言ってッ!行くとは行ってないッ、アッ、オイッ」
そんなつもりは更々ないと言えば嘘になる、まさかのファーストキスの期待感まで膨らんで。
朝から続くおかしな態度は依然気になるが、そうと決まれば押すしかない。
慌てるテマリの固く握られた手を握り返して、シカマルは自宅への道をグイグイ進んでいった。
縁側のある居間にちょこんと座るテマリは、借りてきた猫のように大人しい。
「足、崩せよ…、ホレ、粗茶ですが」
戯れ言を言うシカマルは、多少の緊張はしているものの、自分の城の分だけまだ安気で。
大量に買った団子や饅頭が広げ置かれた包み紙の横に、煎れたての玉露の入った湯呑みを置いた。
それを合図に休まず団子を頬張るテマリを見て、朝から続いた空ろな雰囲気はスッカリ治ったと嬉しくもあるが、
そんなに慌てて食べるとーー
「ンゴホッ」
「そんなに急いで食わなくても…」
まだ、緊張してんだな…などと、奥ゆかしいテマリにシカマルの顔も自然と緩んだ。
言えるものなら言ってやりてぇが…
無理にキスする気なんてねぇんだ。だからそんな緊張すんなよ。
「あ、そうだった。そういやぁ、母ちゃんが用意したケーキもあったな」
「それを最初に言えッ!昨日は動転してテイクアウトを二個食べたからな!」
「二個食べたのはいいが…」
ついぞ膝を折ったシカマルは立ち上がり、テマリが言葉の続きを待ってそれを見上げる。
「なんで、昨日、動転したんだ?」
「えっ……」
見下ろすシカマルの目に映るのは、愛すべき恋人が意地らしく睨み上げる、何てことはない幸せで普通の光景だった。
昨日は送り出したはいいものの、やはり寂しさから貪り食べたのだろうか。
そう思うと、本当に可愛い人だと思った。
自分のことを心から想ってくれていて、動転するほど寂しい癖に、意地っ張りなところがいじらしくもあって。
テマリが何か言いたげな潤む瞳を目一杯広げ、シカマルを見上げ黙り込む。
あ……。
この、見詰め合うまま、抱きすくめてしまおうか。
「テ…」
怯えさせる気はなかった。
でも、これが自然に思えたから、。
白地に落ちた……紅一点。
エ?
そう、テマリの立て襟が首の動作で大きく開いて、白い肌もあらわ、細い座骨の下に朱色の痣を見るまでは。
「ン?」
テマリが訝しい顔を寄越して、一瞬、意識が遥か彼方に飛んでいたことを知った。
「…ケ、ケーキ」
それだけを言い残して部屋を出るのがやっとで、畳を踏む感触すら無かった。
背にした襖からテマリの貫くような視線を感じるが、何処にも行けずに廊下に佇み眉間を寄せた。
「ありゃなんだ…?」
どう見ても虫刺され痕とは違う、広がりをみせる淡い朱色の痣。
かぶれたのかも知れねぇ。体調不良の湿疹かも。
頭の中で忙しく考えは巡るが、ある一つのことが頭から離れなくなった。
「…た、態度がおかしかったのは…そのせい…か…?」
バ、バカ言うな。そんなわけがない。
テマリはウブで、今日ここに来るのだってあんなに嫌がって…
そ、そういうことには縁がないはず。
ハズ?はずってなんだ?はずも何も俺はテマリのそういうこと知らねぇじゃねぇか。
女ってもんは経験してりゃ皆が擦れっ枯らしな態度を取るわけじゃねぇ。
恥じらいもあるだろうし、テマリのウブな態度だって決して演技ってわけじゃーー
って待て待て!経験があるとか無いとか、男がいたとかそんなことは別にいいんだ!
俺はそんな保守的な男でもねぇ!
過去の男が一人や二人、三人や四人。別に百人いたってかまやしねぇんだ!
ただ、ありゃどう見たって、最近ついたもんってことだろ?!
「サイ、キン??」
何言ってんだコノヤロー!!
有り得ねぇよ!有り得ねぇ!!
テマリは一昨日、木の葉に着いたばかりじゃねぇかよ!!
冷静に考えろ…、落ち着け、オレ。
てことは…じゃあ何か?テマリの男は、この里に居るってことか?
昨日。そうだ昨日、二次会でカラオケに行ったとか言ってたな。
まさかそこで知り合ったとか…?
ハア"〜?昨日今日でそんな仲にテマリがなるかよ!テメェざけんなよ!!
じゃ、じゃああれだ……それ以前にってことか?!
俺の知らない昔の男が木の葉にいて、そんでもって俺が放置したから、
焼けぼっくりに、
「火かッ?!」
「…シカマル?」
「ンアッ?!」
急に襖が開けられ、ブツクサ言いながら考え込むところをテマリに見られてしまったか。
「ワリィ、直ぐ取って来るッ」
たぶん、呟き声までは耳に届いていないだろう。
シカマルはそんな祈りにも似たことを思って、無意識に普段身につけない満面の笑顔でテマリに向け笑うと、台所へ跳ぶように廊下を駆け出した。
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