★2017テマ誕★
□to me…@
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** To me,
〜 In the case of temari **
ある夏の日の昼下がり、テマリは眺めの良いレストランの窓際の席で、シカマルと向かい合い座っていた。
木の葉の里で評判だというこの店は家庭的で感じが良く、少し空調が効きすぎなところはあったが、丁度昼時とあって新し物好きな若いカップル客で大層な賑わいをみせていた。
趣のある和食器が並ぶ、ジャンルは、そう、和洋折衷の懐石料理。
所謂、いいとこ取りの多国籍料理であるが、流れを基調にした和の見せる盛りつけと奥深い上品な味つけは、特にヘルシー志向の女性に人気があり、テマリなどもたまに訪れる木の葉で馴染みのくノ一からその口コミを耳にした一人だった。
「評判どーりだ、うまかったな」
満足げなシカマルが目元に笑みを湛えて、そう口にして。
気づけばテマリも、つられて自然と沸き上がる笑顔で、「ああ、美味しかったよ」と、朗らかに応え、好きな人と美食を共にする喜びに満ち満たされる。
こんな普通の幸せが自分の元に巡り来るなんて。
殺伐とした世界を生きたテマリには、何ものにも代え難い極上の幸福に思えて、擽ったい。
「…なに?」
別に何でもなかった。
ただ、シカマルがいつまでもだらしなく笑いを止めないから、テマリは尻の座りが悪くなって、照れ隠しの言葉が口を突いただけだった。
なのに、
「いやな、俺の大事な人間には、飯を美味そうに食うっていう共通点があったんだなァ…と、へへっ、思ってな…」
大事な・・・
こうしてシカマルは、次から次へとテマリの幸せに追い討ちを掛ける。
それは意図してなのか、意図はないのか。
こういう関係になって分かった、シカマルはそんな台詞を平然と言ってのけるところがある。
一言一言に一喜一憂して、振り回されるのはテマリの本意でないが、今日はこうも朝から幸福な時間が続くと、世間一般の恋する乙女同様に、嫌でもその時間に思いを馳せずにはいられなかった。
二人、朝から待ち合わせをして、木の葉の名所の一つ、里立伊吹山緑地という大きな森林公園に行った。
広大な敷地の中に動植物園を併設し、整備された山道へと続くウォーキングコースやジョギングコースを有する、そこは木の葉の里の老若男女らの生活に根づいた憩いの地だった。
草木は緑、小鳥は歌う。そんな爽やかな朝の空気の中を、手を繋いで散策した。
中でも、植物園の薔薇園は素晴らしく、一つ一つ見て回るのも心踊ってかなり時間が掛かったものの、シカマルはそれを文句も言わず、ずっと離れず隣にいてくれた。
手を引かれて風車が建ち並ぶ芝生の丘に辿り着いた時などは、至れり尽くせり、用意してくれたレジャーシートに座ってバケットと紅茶で朝のティーブレイクまでして。
極めつけは、木漏れ日きらめく湖で、人生初となる手漕ぎボートにも乗った。
絵に描いたような定番のデートに、テマリは思い出しても笑みが漏れそうになる。
そして、そんな盛りだくさんは、午後からも続くと聞かされた。
封切りされたばかりの映画に連れて行ってくれるというのだから、シカマルはテマリが思う以上にマメだった。
勿論、戦術戦法に関していえば、慎重を体現したような男だから、総じてこういった性質も頷けるというもので、恋人が出来る幸せを実感こそすれ、自身も嫌か嫌でないかといえば、正直、嬉しいくらいだ。
毎回、そうして心尽くしで楽しませてくれるシカマルに驚かされてばかりだが、今回はこの店に連れて来てくれたことが実は一番の驚きだった。
それというのも、馴染みのくノ一曰く、予約がなかなか取れないことで有名な店のようであったし、何より、以前、テマリが世間話程度に聞き齧った噂を口にしたことを、シカマルが覚えてくれていたことに驚いた。
正直、嬉しい。その言葉に嘘はない。
嘘はないが、何か……何かが近頃、少し…気になるんだ。
ポツリと宿った出所不明の気懸かりの種は、晴れるばかりのテマリの心を曇らせていた。
食事も終わり、後はデザートを残すのみとなった。
テマリはテーブルの下で、手首から腕をひとさすりする。
気合いを入れて着込んだノースリーブのミニワンピースのせいで、放り出した足や肩から冷えてきた。
「オレ、結構、バジル好きかも…」
「そうかっ!あの仄かなバジルの香りが絶妙だったもんな!私も食べた途端に頬っぺたが落っこちるかと思ったぞっ!思うにあの隠し味はバル…サ…」
心の靄を追い払おうと、つい、テンション高めで畳み掛けてしまったことを後悔した。
言い方が可笑しかったのか、シカマルが話し途中でクシャリと笑ったからだ。
「…オイ、人が話してるのに笑うな。失礼だぞ」
がっついて聞こえて下品だったのだろうか。
意思の疎通のとれない笑顔が、不安の芽吹く心に猜疑を過らせる。
「また、連れてきてやるよ」
シカマルはそう言ってまた笑った。
今度はテマリにもにもその笑顔の意味が分かって、途端、息が出来ずに胸が締め付けられる。
「あー、一緒に…また今度は、ほら、ディナーとか…よ?」
「そ、そうだな…でも、ディナーは雰囲気が変わって相当ーー」
相当、お高いと聞く。
こういうことに疎いテマリとて野暮じゃない。
デート相手を前に値踏みするなどもってのほかで、友人関係の時のように気安く言わなくて良かったと、内心、胸を撫で下ろしていた。
するとシカマルは、テマリの内情など知るすべもなく、モジモジと言い難そうに視線を外して、
「つーか、お前の誕生日、もう予約してあるから」
と言った。
不意打ちだった。
初めて恋人と迎える誕生日に、ムードたっぷりのバースデイディナー。
否が応にも、
「そーそー、ナルトの新居ってのがよ、これがビックリな話しで、」
不埒な妄想に目を丸くしたテマリに対して、この話しはこれで終いと言わんばかりに話しを変えられた。
無論、大っぴらに挙動不審なテマリに反論の余地は無い。
シカマルはおあつらえ向きの馬鹿話を語りながら、暑くなったのか、徐に家紋入りの黒い上着を脱ぎ始めた。
テマリの来訪に合わせて休暇を取ったシカマルは、如何にも休日らしく襟ぐりの大きく開いた白いシャツに、ゆったりした黒いズボンといったラフな格好をしていた。
もう何度か目にする、休息日の恋人の姿を目に焼きつける。
そして、
私はお前に癒されてるなぁ、なんて思ったりして。
ナァ、私はお前を癒してあげられている?
フフ、その気の抜けた顔。でも、その顔が出てるってことは、満更、私もお前を癒してるってことなのだろう?
なーんてな…フフ…
「これ」
そんな取るに足らないことにふけ込んでいると、突然、話を切ったシカマルにテーブルの端から脱いだ上着を渡され、考えもせず手に取った。
「…なんだ?」
「気づかなくて悪かったな」
「え?」
「冷えてきたんだろ?こんなもんしかねぇが…」
テマリは積み重なっていく幸せをまた噛み締めた。
普段であれば突っ返しているところだが、そこは例外なく恋に浮かれる女だ。
振り回されたくはないと思ってみても、身体は素直に享受して、有り難く太股の上に載せ置いた。
何度も言うがシカマルはマメだ。そして優しい。
付き合う前はこんなシカマルを見る日がやってこようとは、テマリは想像もしていなかった。
「ン?どうした?」
そして、それを目を細めて見ることになった自分自身のことも。
「…いや、」
しかし、こうして優しくされればされるほど、
「なんでも…で、その後、ナルトの新居へ行ってどうしたんだ?」
このモヤモヤした気持ちはいったい何なのか。
テマリも、おあつらえ向きの馬鹿話しに助けを求め、頭の中から余計な考えを追い払った。
「あ、ああ…でよ、飛んでもねぇ話。アイツ、ベランダに何隠してたと思う?…それがよ…」
シカマルは先日開かれた、新婚家庭に押し掛けるという、罰ゲームのような飲み会の話を続けた。
テマリはそれを微笑みを湛えて聞いてはいるものの、シカマルの表情を見ているだけで幸せに押し潰されそうになる。
会った数時間でこれなのだから、幸せが増せば増すほど、数日後にやって来る身を切られるような帰郷の寂しさが思いやられて、。
最初は浮かれるばかりで、寂しいなんて思わなかった。
今は何をしていても、また離れ離れになることを考え胸が痛んだ。
そんなことを考えているものだから、シカマルを真っ直ぐ見ているのが辛くなって。
ふと、愛しさの募る恋人から視線を外した先に、店員がこちらに向かって来るのが見えた。
「こちら、当店オリジナルのカタトゥーヤです。お好みのコンポートと御一緒にお召し上がりください」
そう、これが美味いと評判のデザート。
プリンのようでプリンでない、カスタードのクリームブリュレ。
募る寂しさも愛しさも一瞬で何処へやらと散霧して、ガラス細工のような色とりどりの果物のコンポートにテマリは目を輝かせる。
シカマルが笑顔を溢していることも、もう目に入らずに。
いざ、フォークを握り締めて取り掛かろう、
と、しているそんな時だった。
「わっりィ!シカマル!火影様が大至急ってんで俺が呼びに来た!!」
急を報せる伝令役の到来に、テマリとシカマルは同時に声のする方へ顔を上げる。
誰あろうキバが、恋人たちが作る和やかな店の雰囲気を切り裂く大声を張り上げ、好奇の視線を一身に浴びて、入り口から真っ直ぐ二人の元へ向かい来るところだった。
「大至急って、何事だ?」
辿り着いたキバに、努めて冷静にシカマルは応える。
「うまそう〜」などと、慌てた形相を崩してまでも、ケーキに手を伸ばすお約束を忘れないのは木の葉の伝統なのか。
結局、シカマルにその手をピシャリと掴まれ、これまたお約束に口を尖らせる。
「用は?」
「あーっと、…今、大名とテレビ電話繋がっててよ。どーしてもっ、お前じゃなきゃ分かんねぇことがあるんだってよ」
シカマルは言下に顔を歪ませた。
「ったく…だからこうなることを予期して…」
シカマルは誰にでもなく上司の愚痴を漏らし、大人しくやり取りを見守っていたテマリに顔を向ける。
「悪い。ちょっと行ってくるわ」
「ああ。分かった」
「いつ戻れるもんか分かんねぇから、アンダは宿で待っててくれ」
「ああ」
「…でもなぁ、」
シカマルは憤懣やる方ないようで。
しかし、相手は火影。感情の持って行き場がないのか、隠さず情けない顔をする。
「外はいい天気だし…こんな日に宿に居させるのも…、アッ、なんだったらよ、ここに映画の前売り券あるからイノでも呼ぶか?これお持ち帰りにすりゃホイホイ来んだろ、プリン好きだし」
などと、クドクドと辛辣気味だ。
こうなると、恋する乙女など何処へやらで、いつものテマリが頭をもたげる。
「いい加減にしろ」
「え?」
「つべこべ言わずさっさと行け!火影が御呼びなんだぞ!四の五の言うな!」
テマリの一喝に、シカマルは一瞬目を見開いたかと思うと、直ぐに笑みを浮かべ、
「じゃ、仰せの通り、行って来ますか」
と嬉しそうに宣った。
席を立つのを待ち構えるキバが、「シカマルも形無しだな」と小声で哀れみを向けたが、しれっと上着を着込み、何ら気にしていないよう。
「あ、それから、これで頼むわ」
去り際、振り返ったシカマルが、テーブルに黒い財布を置く。
「なんだこれは?」
「会計してる時間ねぇから」
「バカ、そんなもんいい。私が払っておく」
「ダメだ」
「ダメってお前…、私だって人様の財布から勝手に払うような真似したくないよ」
「そこは譲れねぇ」
真摯な態度と真剣な眼差し。
さっさと行けと言った手前、ここは一先ず自分が折れるしかないとテマリは思った。
「分かった分かった!しっかりやってこいよ!代わりにケーキは私が食べておいてやるからな!」
キバを伴い去っていくシカマルの姿を、テマリは店の中から消えるまで見送った。
昨日、夜遅く木の葉の里に着いた時は、何とか時間を見繕って出迎えてくれた。
シカマルがぼやきたくなるのは、同じく、今日の為に八面六臂で仕事を片付けてきたテマリにも、十分過ぎるほど分かる。
言い方、キツかったかな…
そう思うと、さっきまで輝いて見えた器の上のケーキが、急に味気無く見える。
「すいません」
テマリは、近くのテーブルで後片付けをしているウエイトレスを呼んだ。
「はい」
「これ、持ち帰りにしてもらいたいのだが」
きっと二人で食べた方が美味しいに決まってる。
了解の旨言ったウエイトレスが、トレーにをケーキを載せた。
「それと、お会計お願いします」
「ハイ。直ぐにお持ち致します。少々お待ちください」
テマリはシカマルの置いていった財布をどうしたものかと手に取った。
「ああは言ってもなぁ…」
やはり、気が進まない。
別に私が払っておいても同じじゃないのか?
どうしてもというなら、後から受けとればいいだけの話だ。
でもなぁ、。
潔くない。
場を収める為に了承したのが仇となった。
あーもう、こんなことっ、悩むことかっ!
よし。
テマリは心の中でそう呟いて、潔く黒皮の財布をパッと開いた。
結構…入ってる…な…
もう!だからこうなるからイヤだったんだ!
金額を把握する為、嫌でも現金をチェックしてしまうのは仕方がないと、自分に言い聞かせた。
免許証の類いは…、無い。
写真とか…、入ってる…様子もないな。
って、バカかッ!
結局、現金だけでなく、あれこれと中身を探り出す自分にうんざりした。
ところが、
ん?なんだ……これ。
カードポケットの奥深く、切り込みいっぱいに何かが差し込まれていた。
ン?……取り出せない。
この膨らみ。この形。
浮かぶシルエットに這わせた手触りと、釘付けとなった目視で外縁をなぞれば、それが平たい袋に入った円形状の物体と分かる。
こ、こ、これは!!
ままままマサカ?!?!
どこからどう見ても、明るい家族計画だ。
「△#$◇ヒ〆ゞ」
過呼吸になりそうで言葉にならない。
素早く財布を閉じると、穢れた悪魔の紋章でも見たかのようにそれをテーブルに投げ捨てた。
「お客様どうかされましたか?…落ちましたよ」
テイクアウトの品を持って来たウエイトレスが、床に転がり落ちた財布を丁寧に拾い上げてくれた。
そんな、そんなこと、そんなことってあるかッ!?!
キスもまだなのに!?!
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