第一書庫

□秘めた独占欲
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パーティーの翌朝ー




堂上が出勤すると、何名かの隊員が事務室で盛り上がっていた。



「昨日の笠原可愛かったよなー」

耳に飛び込んできた内容に、堂上はドアの手前で思わず立ち止まる。

「女って化けるよな!」

「いや、最近の笠原は前より女っぽくなったって!」

「ちょっと背が高いけどモデルみたいな足してたよなぁ」

昨日の郁のドレス姿に目を見張ったのは、どうやら堂上だけではなかったらしい。
今まで、郁を女として意識していなかったはずの隊員たち。
興奮ぎみに語るその言葉の数々は堂上の心の揺れを表すように眉間の皺を増やす。

「俺、狙おうかな」

「マジかよ!?」

「男に免疫なさそうだから、下手に慣れてる女より簡単に落ちそうじゃん?」


簡単に落ちそうじゃんー

それを聞いた瞬間、硬く握っていた拳に力が込もった。
どうしようもない焦燥感が堂上を襲ってくる。
郁を狙おうが、落とそうが、誰にもその権利はある。
上官として、それを止める権利などない。

だが、堂上篤個人なら…


それでも止めることなどできはしない。
蓋をして鍵をかけた以上、自らそれを解放する勇気が堂上にはなかった。

王子様が好きだと言った郁は、過去の自分であって、今の自分ではない。

堂上は思考を強制終了しようと、大きく息を吸いこんだその時ー

「おはようございます。堂上教官?」

背後から声をかけられた声にギクリと呼吸が止まる。
最悪のタイミングだと堂上は顔をしかめたが、努めて平静を装い
振り返った。

「ああ、おはよう…」

普段と変わらない態度をしたつもりだったのに、郁は訝しげに首を傾げた。

「どうしたんですか?なんか…不機嫌そうですけど」

どうしてこいつはこんな時だけ鋭いんだ!

心の中で怒鳴りなっていると、郁の顔がみるみるうちに曇っていく。

「もしかして…昨日のこと怒ってます?あたしがあんな格好したから教官が嫌な思いをしたんじゃ」

そうだ!全部お前が悪い!

そう言ってゲンコツでも落とせば楽だったのかもしれない。
しかし、そんなことをすれば郁は自分を責めるだろう。
そもそも、あんな格好をしたのは郁の本意ではなかったのだ。
項垂れた郁の頭に手を伸ばし、いつものように数回のポンポン。

「怒ってないから、 そんな顔をするな」

俺の問題だ、そう言うと郁は頭に乗っていた堂上の手を取ると凄い剣幕で叫んだ。

「私でよければ相談に乗ります!いつも教官にお世話になってますし、何か私に出来ることはないですか!?」

必死ー

そんな形相で迫られて、堂上は面食らった。

上官が部下に相談?
そんな無様な話聞いたことがない。
そもそも、悩みの種がお前が他の男に取られるかも知れないと動揺していたなんて、言えるはずもないー

けど、真剣そのものの郁の気持ちは限りなく嬉しい。
無意識に緩んだ顔は郁を安心させているだろうか。

「お前に慰められるほどヤワではないが…せっかくだから甘えさせてもらう」

「へ…?」

自惚れるな!とでも言われると思っていたのだろうか。
拍子抜けしている郁の手を取ると、堂上は事務室とは逆ー
つまり、元来た廊下を歩き出す。

「ちょ、教官?事務室はあっちですよ」

恐らく手を惹かれて真っ赤になっているだろう。
振り返ってその顔を見たい気持ちを抑えて堂上は足早に歩く。

「始業まで、まだ時間はある。ちょっと付き合え」

悩みを相談する訳にはいかないが、少しでも事務所にいさせたくないのが堂上の本音だった。

そんな細やかな独占欲ぐらいは許せー

そんな気持ちを込めて、堂上は半ば引きずるように郁の手を引いて歩いた。




END


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