短編

□あなたと噂になるのも悪くない
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私は閻魔大王の第二補佐官、菜穂。
地獄で鬼灯様の尻に敷かれながら様々な仕事、雑用をこなしている。
この前鬼灯様に猫又がくっついていた。

「お二人は付き合ってるとかないんですかぃ?」

媚びながらこう聞いた。
彼はゴシップ記者らしい。

その日、鬼灯様がめちゃくちゃ睨んでその後どこかへ連れ出して以来猫又を閻魔庁でみていない。
鬼灯様のことだから深く聞かない方が身のためだ。

「すみませんが菜穂さん、桃源郷まで頼まれてくれますか?」

疑問符で聞いてはいるが返事は承諾の言葉しか認められない。
とんだ鬼上司…実際に鬼だし。

「はい、どこに行けば良いでしょう?」

「桃源郷に極楽満月という漢方薬の店があります。そこに行って金丹を受け取ってきて欲しいのです。」

言うや否や、鬼灯様はお気に入りの金魚草ボールペンで地図をさらさらと書いた。
地獄の門を抜けてすぐの桃源郷の入り口付近だ、行けそう。

「わかりました、では早速いって参ります。」

普段から身だしなみには気をつけろと鬼灯様がおっしゃるおかげで仕事中ならばいつでも他所へ行けるようになっている。

「あ、変態には気をつけて。」

「私は鬼ですよ?それにもうどれだれ鬼灯様に鍛えられたことか…」

「それもそうですね、ですがあそこの変態はタチが悪いので…まぁいってらっしゃい。」

数枚の書類とお金を預かって私は閻魔庁を出た。
鬼灯様は意外と世話焼きだが、こんな風に心配をするのは珍しい。
かなり変態な亡者でも落ちてきたのだろうか…。

考えながら歩いていたら門はあっという間だった。
天国に行くのはかなり久しぶりだ。
用事があって何度か来たが桃源郷は初めてで少しワクワクした。

「うわ…住みたい…」

つい口に出してしまうほど初めての桃源郷はとても綺麗な景色だった。
芝生にうさぎ、桃の木、滝、虹、あたたかい陽気。
さすが観光名所だ。
とは言っても観光している時間はない。
鬼灯様に頼まれている以上油を売っている暇はない。
鬼灯様から聞いたとおりに行くと小さな建物があった。
看板を見ると極楽満月。
特に周りにうさぎが多いように感じる。
三角巾をつけている子もいてとても可愛い。

「ごめんください。」

「いらっしゃい、あれ?はじめて?」

店に入ると三角巾に白衣の人が返事をした。

「はい、地獄閻魔庁第二補佐官の菜穂です。上司に頼まれて金丹を受け取りに参りました。」

そう言うとにこにこしていたその人は顔色を変えた。

「第二補佐官?上司…」

「はい、連絡は来ておりませんか?」

「僕はてっきりアイツがくると思ってたよ…」

ボソッとそう聞こえた。
アイツというのは鬼灯様のことだろうか?
だとしたらこの方は凄い方なのかもしれない。
私は第二補佐官になってから鬼灯様のことをアイツなどと呼ぶ人を見たことがないからだ。

「あ、申し遅れたね。僕は白澤。ここで漢方医をやってるよ。」

「白澤…ってもしかして…中国の神獣のあの!?」

第二補佐官になるまでにしてきたありとあらゆる勉強の中に少しだけ白澤、という表記を見たことがある。
中国の妖怪、神獣を語るにかかせない存在だ。
書物でしか読んだことのない方が目の前にいるかもしれない…そう思うとつい、声が大きくなった。

「あ、僕の事知ってるの?谢谢。そうだよ。僕は神獣だよ。」

そこまで聞いて私は不思議に思った。
私が見てきた白澤はすべて獣の姿だ。
角がありしっぽがある、見た目は偶蹄類に似ているイメージがあったから。
だけど目の前の白澤様は人間…。

「白澤様をお見かけしたということは良いことがありますか?昔読んだ書物に貴方は吉兆の印と書いてありました。」

「さぁ?でも宝くじはいっつも次の順番の人に当たっちゃうよ。」

あ、宝くじ買うんだ。
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