短編
□忘れるための恋だったのに
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「私は貴方をそのような対象として見れません。」
その一言で私の恋はあっけなく終わった。
ここ閻魔庁に配属されてからずっと恋い焦がれていた鬼灯様。
お仕事は早いし的確、頭もいい、それにお顔も整っている。
一見厳しそうに見えるが本当に困っている時は助けてくれる、そんなお方。
「そう…ですよね、すみません。お仕事のお邪魔をしてごめんなさい。失礼します。」
精一杯平気な振りして私は寮へと走った。
部屋に戻り一人になると、失恋したという事実は私へ重くのしかかる。
ひとしきり泣いて目は腫れに腫れた。
明日から仕事もあるのに、鬼灯様をみたらまた泣いてしまいそうだなんて…。
よっぽど好きだったんだなぁと客観的な自分と、思い出したらまた泣き出す自分がいる。
気づけば茜色だった空は、薄ら藍色になっている。
ふと、自分の顔を鏡で見た。
…これでは明日仕事へ行けない。
顔がパンパン、目が充血し腫れている。
自分の顔は元々整ったものでは無いと思うが今の顔はそれよりも酷く感じた。
このまま明日仕事へ行けば鬼灯様に迷惑をかけるだろう、私はどうにかならないものかと頭を捻る。
「もしもし、お香ちゃん…?」
私が頼ったのは女子会にいつも呼んでもらって仲のいいお香ちゃんだった。
理由を話すとまた泣いてしまいそうだったので瞼や顔の腫れをどうにかしたいとだけ伝えた。
「それなら天国に優秀な漢方医さんがいるの、そこで聞いた方がいいと思うわ。」
「うん、ありがとう。今度たくさん愚痴とか聞いてね?」
もちろんよ、と優しそうな声が聞こえてそのあと電話にがやがやとうるさい声が入った。
「ごめんなさいね、ちょっと忙しくて…またお茶しようね。」
私は顔を洗って深呼吸をした。
お香ちゃんに聞いた天国の漢方医さんのところへ行こう。
あらためて見た自分の顔は酷いものだった。