SPEC小説

□月の伝説
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当麻は何とも言えない気持ちになった。
胸の奥が痛いような…苦しくなるような…

「それから、兎は…?」

当麻は少し悲しそうな声で問いかけた。


「老人は帝釈天へと姿を変え、自分の身を犠牲にした兎を哀れみ天にある月へと上げた…
それが月に兎がいる理由だと言われている」


当麻の目には光るものがあった。
月に、もの悲しい昔話があるとは思いもしなかったし、瀬文がそんな話をするのも悲しくて切ない気持ちになった。

「何か、悲しい伝説ですね」

「そうだな…
でも、俺は誰かの為に身を犠牲にした兎を誇りに思うけどな」

瀬文は月を見上げた微笑んだ。
当麻はその答えに、瀬文らしいと思うと同時に、天に上がった兎と瀬文が重なった。
胸の奥が潰されそうに痛い…。
そんな時、瀬文がある言葉を口にした。


「お前と月の兎は似ている。
いつも一人で悩んで、身を犠牲にして…満月を見るたびにそう思ってしまう。
当麻、一人で悩むな…
俺が側にいる!俺に頼れ!」



当麻は、瀬文が満月を見るたびに、その様に思っていたことに驚いた。
そんな瀬文に少し反発するかのように当麻が言い返した。


「何、言ってるんすか!?
兎は瀬文さんですよ!
必要とあればに体が動くとか言っちゃって…あたしの盾になって怪我して死にかけて…。
おまけに一人で悩んで突っ走って…
瀬文さんこそ、あたしに頼ってください!」


当麻は瀬文の胸に顔を埋め、瀬文の存在を確かめるように強く抱き締めた。
瀬文は、当麻の頭の優しく撫で自分の腕に納めた。


「わかった。
善処する…。
でも、お前も無理はするな!!
俺の側にいろ…死ぬな。生きろよ!!」


「うす…。
あたしも善処しやす。
これは約束ですよ!!
瀬文さんも絶対に死んだりしないで下さいよ!
ずっと側にいてください…」

「心配するな。
ずっと側に居てやる。何年も何十年も居てやるよ」


二人は願った。
この約束が壊れませんように…。
ずっと、この温もりを分かち合えますように…。

切ないないが、幸せに感じる瀬文と当麻を月の光は、いつまでもを優しく包み込んでいた。
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