SPEC小説

□守る鳴き声
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捜査で訪れた、ある家はとても古く梅の木に囲 まれるように建っていた。 この世には、残酷な事件や運命も存在しない、 ただ幸せだけがあるのではないか…。 そんな事を思ってしまうような、楽園のような 風景が広がっていた。

そして、玄関にある梅の木では一羽の鶯(うぐ いす)が鳴いていた。

当麻は、梅林の風景を見ていたら、ずっと前に 図書館で読んだ本の事を思い出した。 中学生の時だったか… いつも読まないような小説を夢中で読んだ、 悲しい恋のお話し。

最後は女が死んでしまう悲恋。 男は亡くなった愛しい女を思い、墓の横に梅の 木を植えた… 女が寂しくないようにと…。 そして、いつしか男は鶯(うぐいす)になり、 女の墓の横にある梅の木に止まり鳴くように なった。 『鳴く』のではない。『泣く』のだ…。 お前が恋しい、会いたいと… お前はずっと俺のものだと…。 そして、墓には誰も近づくなと威嚇するように、鶯は鳴き続けた。

そんな話だった。

その頃のあたしには、恋だの愛だのに興味もな ければ、理解も出来なかったのに、なぜか夢中 で読んだ。

そんな事を、当麻は思い出し瀬文に話した。

「ふっ…。 お前も恋愛小説とか読んでんだな。 似合わねぇ」

「別に、いいじゃないすか!? ちょっと、気分転換と言うか、魔が差したと言 うか… でも何か、その話しちょっとリアルに感じたんですよね…」

「リアルってなんでだ?」

当麻は遠くを見ながら、何か思うように話し始めた。
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