SPEC小説

□月の伝説
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帰り道、月を見上げた。
あまりの静寂と柔らかい月の光に、この世には、瀬文と当麻しか存在しないのではないのか…そんな風に思えてしかたなかった。

瀬文は当麻の華奢な手を握りなが、静かに話し始めた。

「当麻、月には兎がいるって話聞いたことあるか?」

突然の瀬文の話しに驚いたが、当麻は少し笑みを浮かべ瀬文の問いに答えた。

「急にどうしたんですか?
何か瀬文さんらしくないっすよ。
でも…まぁ、聞いたことありますよ。
信じてはいないすけどね」

「だろうな…」

瀬文は少し寂しそうに答えた。
当麻はそんな話を急に始めた瀬文が気になり、繋いだ手を握り返し聞き返した。

「その、月の兎がどうしたんですか?」


「うん…。
俺が小学生の時に、ある昔話を聞いた。それが月の兎の伝説で満月を見るたびに思い出してな」

「伝説?それ、聞きたいすっ!」

当麻は笑顔で話して欲しいとせがんだ。月明かりに照らされる当麻の笑顔は美しく、瀬文の心臓はドキリッと跳ねた。
瀬文は当麻を見つめ1つ1つ話し始めた。


「昔、ある森に猿、狐、兎が住んでいた。ある日、3匹は倒れているみすぼらし老人を見つけて助けた。
猿は木の実を採り、狐は魚を捕り老人に与えた。
しかし、兎だけは何も準備出来ずにいた。悩み、そしてある事を思い付いた」

「あること?」

「あぁ…
猿と狐に火を起こして欲しいと頼んだ」

「火を?それから、兎はどうしたんですか?」

瀬文は黙りこんで当麻の手を少し強く握って答えた。


「兎は、火に飛び込んだ。
何も準備出来なかったから、自分を食べて血となり骨となり肉にして欲しいと…」
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