SPEC小説

□生きる音
1ページ/1ページ

今日は授業参観。
母上が観に来てくれるけど今日は、あたしの得意な算数の授業じゃない。 『いのち』について勉強するらしい…


『いのちの授業』


あたしは、いのちについて勉強した。 生きるとは?
いのちとは?
仲間とは?
家族とは?

少し難しかったけど、でもあの音は忘れない。
あたしの生きてる音。
母上の生きてる音…心臓の鼓動。





・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・







「せーぶーみーさーん♪これ見てください! 聴診器スッよ!!聴診器!!」

当麻は、ピンク色の聴診器を瀬文に見せた。

「ああっ!?
そんなの見りゃぁ解る。バカにするな」

「あぁ…。
そうスッよねぇ…
瀬文さん一番、お世 話になってますもんね♪
そーだ!!瀬文さんの脳ミソがどれだけ入ってるか確認と…」


当麻は瀬文の坊主頭にピタッと聴診器をあてた。


「うるせっ!!
つーか、そんなもん何に使うんだ?
何かのプレイにでも使うのか!?
お前、変態だな…」


「はぁ!?バッカじゃねぇ!!違うしっ」


「じゃあ、何に使うんだ?」


「…。」


「どうした?答えられないのか?」


「…。」

「もういい」


何も言わない当麻に、しびれを切らし席を立と うしたその時、泣きそうな声で答えが返ってきた。


「…ちょっと懐かしくなったんすよ。」


瀬文には当麻が泣いているように見えた。


「懐かしい…?
聴診器に思い出ででもあるのか?
初恋の相手が医者だったとか?」


「違いますよ。
小学生の時、授業で使ったんですよ。
いのちの授業つって、聴診器で自分の心臓の音 聴いたんすよ…
その時、母上の心臓の音も聴いて、何か恥ず かったけど嬉しくて。
でも、もう母上の生きてる音は聴けないかと思うと…」


瀬文は、切ない声で話しをする当麻の頭をそっと撫で聴診器を自分の胸にあてた。

「俺の生きてる音を聴け。
俺は死なん。
ずっとお前の側にいる」

当麻は、心地よい音を聴いた。
瀬文の生きてる音…愛する音…


「当麻、俺にもお前の生きてる音を聴かせろ」


「はっ///へっ変態!!乙女の胸に聴診器あてるな んてセクハラですよ」


「ごちゃごちゃ、うるせっ!!」


聴診器を奪いとり、そっと当麻の胸にあてた。


「お前の生きてる音、しっかり聴こえる。 生きろよ。
なにがなんでも…生きろ。」


「うす…」


恥ずかしい…でも嬉しい。
そんな思いでいっぱいになった。
当麻は、懐かしむかように笑みを浮かべ嬉しそうに、ぽつりぽつり話し始めた。



「母上は、あたしの心臓の音を聴いてすごい嬉 しそうにしてたんすよ。
あたしが 生まれてきてよかったって…。
だから、あたし思うんですよ。
自分の子供の心 臓の音…ってどんな風かなって」


暫しの静寂のあと瀬文は当麻の心臓の音を聴き ながら優しい口調で答えた。


「俺も聴いみたいな…
自分の子供の心臓の音」

「へっ?」

「二人で叶えてみねぇか?」

「えっ!?あの…その…それって…」

「俺はお前との子供が欲しい…
ダメか?俺とじゃ嫌か?」



何と答えたらいいのか、迷った。
この先どんな運命が待っているのかわからない。
普通に幸せになれるとは思わない。
左手の運命は重すぎる…。
それでも瀬文さんの隣にいたい。
瀬文さんが隣にいてほしい…



「嫌じゃない…すよ」


あたしは、信じることにします。
輝く未来があること。


そして、瀬文さんと一緒に子供の『いのちの音』が聴ける日が来ることを…。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ