†Short Novel

□†月が輝く夜に
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いつの間にか森の中にいた。



学校帰りだったはずなのに。



見渡す限り木で埋れている。
人の手が加わっていない森。


獣道もない森に立っていた。



陽は落ち黒の世界へ向かう。



闇に染まる森の中一人きり。
不安がゆっくりと心に滲む。



不気味に聞こえる木々の音。



その隙間から何かが聞こえた。



はっきりとは聞き取れない。
幼い少女の様で大人びた声。
聞いたことのない声なのに。



惹かれるように足を向けた。
自然とそちらへ身体が動く。



声の主が、どこにいるのか、
何の目的で俺を呼んだのか、
先ほどの紡がれた言葉さえ、
何一つわかっていないのに。



身体は躊躇なく歩を進める。



ただ何となく理解したのは、
俺は彼女に呼ばれたのだと、
その事だけはわかっていた。


目の前が開け、風が吹いた。



暗闇の筈なのに眩しかった。


一枚の大きな鏡の様に水面が
空に浮かぶ月の光を反射する。



そこに白い何かが映っていた。



顔を上げると大きな岩の上に
白一色のワンピース姿の少女が
一人、月を見上げ立っていた。



その姿はまるで狼の遠吠えだ。



月に向かって何かをつぶやく。


その声が先ほどの女の声なのか
確かめたくて一歩踏み出した。



パシャン。



眼前に広がる水面が音を立てた。



ジワリと制服のスボンが濡れる。


波紋が広がる水面に少女が映る。
そこに映る少女と視線があった。


しかし顔を上げると岩の上には
少女どころか誰の姿もなかった。



思わず口からため息が漏れた時、
背後に気配を感じ、振り向いた。



「うわぁ!」



岩の上にいた少女が背後にいた。
驚きのあまり水に足をとられた。


背中から水面へ体が傾いていく。


まるで少女へ手を伸ばすように
腕が宙に浮き指先が空を切る。



ドボンッ!!



水底に沈むような鈍い音がした。
視界が一瞬で暗闇に支配された。



え…?



困惑。頭の中はそれだけだった。
スボンの裾が濡れるほどにしか
ここの池の水嵩はなかったはず。


身体が沈むなどあり得ない事だ。


なのに水面ははるか頭上にある。
月明かりかわずかに輝いている。


ゆらゆら揺れる水面の向こうで、
白いワンピースがひるがえった。



ゴボッと口から気泡が吐きでた。


そして、意識は暗闇に呑まれた。




深く…深く……沈んでいった…。




…………………





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