ジョジョ(短編)

□終恋
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「別れようジョルノ」


挨拶もそこそこに私は本題を切り出した。ここがカフェであるため仕方なく注文したコーヒーが目の前で湯気を上らせているがとても口にする気にはなれない。今飲んだところで味なんてしないだろう。



「どうしてですかナマエ。なんで、急に…。何があったのですか?」



私の言葉に目の前に座る恋人は当然の質問を返した。その声にわずかだが震えを感じ胸が痛んだ。だからと言っていった言葉は覆らない。今日、私は彼と別れるためにここに来たのだ。

ジョルノは持っていた花束をどさりと机の上に落とした。このキザな恋人はいつもデートの度に私に素敵な花束をプレゼントしてくれたのだがこの花たちももうもらえることがないのだと思うとたまらない気持になる。



「どうもこうもないよ。何もかも嫌になったんだ。何も言わず別れてほしい。そうすればお互いこれ以上嫌な思いをせずにすむから」


「嫌です!僕は嫌です!絶対に貴女と別れたくありません!理由はなんですか?僕に何か不満があるなら直します!だから別れないでください!」



ジョルノはそう悲壮な表情で叫ぶ。ここがカフェだということを彼は忘れたのだろうか。周りの客がざわめきこちらを振り返った。

私はそんなジョルノの顔をじっと見つめた。ジョルノの表情にはいつものように儚げで穏やかで優しげな笑みはどこにもない。ただ必死に悲痛な面で私を求めている。その行為に私のまだジョルノを想う部分が熱く囁く。謝ろう。ごめんといって愛してるといえばいい。それでまた彼と恋人でいられる。

そのささやきに私は首を振った。もう遅かれ早かれ別れは来るのだ。なら早い方がいい。私は息を吸い込んだ。別れの理由はできればいいたくなかった。でも言わずに別れられるとも思っていなかった。私は吸い込んだ息を静かに吐き出した。



「君の父親がDIOだからだ」


「確かに僕の父親はDIOという男ですがそれがあなたとの関係にどんな影響を与えるのですか?そんな理由ではとても僕は納得できませんよ」


「私の兄はDIOに殺されたんだ」



ひゅーとジョルノの喉を空気が通う音がした。私は目の前にあったコーヒーに口をつける。喉がやけにからからで水分が欲しくなったのだがやはりコーヒーの味は感じなかった。

私の兄はDIOに殺された。ホリィ・ジョースターを救うための度旅に兄さんは同行してそしてDIOに返り討ちに遭い死んだ。

私も兄さんとともに旅に同行したかったのだが女という理由と私のスタンドが戦闘向きではないという理で拒否された。この時ほど自分のスタンドが戦闘向きでないことを恨んだ日はない。

世界でただ一人きりの兄さん。スタンドという特異な才能を持った私たちを理解できるのは互いだけだった。私にとって世界とは兄さんだけだった。なのに兄さんは死んでしまった。私は孤独だった。

自分を慰めるための一人旅行で私はジョルノに出会った。ジョルノもスタンド使いであり私と同じ共有できる人だった。私はジョルノを愛した。

だがその時間は終わりを告げた。空条承太郎が私に告げた。彼は、ジョルノ・ジョバーナはDIOの息子であると。

はじめは彼の言っていることがわからなかった。ジョルノがDIOの息子?私と兄さんの尊厳を奪いそして兄を殺したあの男の息子だと?私もDIOに会ったことがあった。エジプトへの旅行は私も同行してたからその時奴に接触した。そういえば奴とジョルノはどこかしら似ている気がする。あの黄金の輝きとカリスマはまさしくDIOの物だ。

私は悩んだ。ジョルノとDIOは親子であるとはいえそれだけで私は最愛の恋人を失わなければならないのか?目を瞑ればいいのではないのか?忘れればいいのではないのか?そもそもDIOとジョルノを一緒くたにすることはおかしいのではないのか?だが答えはノーだ。私はそのことを無視できない。

DIOは私から全てを奪った男なのだ。あの男だけは許すことはできない。自分が絶対者であると笑みを浮かべ力でありとあらゆるものを蹂躙しそして私の世界を奪ったあの男だけを許すわけにはいかない。それにジョルノがDIOの息子というならばやはり無関係ではないのだ。私は飲み終えたコーヒーカップを机に置いた。私はもう十分言葉を伝えただろう。



「別れてくれジョルノ。君を見ているとDIOを思い出す。それが私には耐えられない」


「・・父と僕は関係ありません。父がしたことで貴女と別れなければならないなんてあんまりです」


「そうだね。それでも私はもう無理なんだ。君の仕草からDIOを見つけてしまう。私が君とDIOを同一視し君を憎む前に私を解放してくれ。君を嫌いになりたくないんだ」



ジョルノはDIOにとても似ていると思う。本質的にはDIOとは違うなにやら輝かしい精神が根幹をなしているようだがそれでもふとしたときに彼からDIOを感じてしまう。例えば無条件に人を引き付けるカリスマ、冷徹な思考、無駄という口癖、今ふと思うだけでここまで出てきてしまうのだ。これ以上時間を共にすればさらにジョルノをDIOと重ねてしまうだろう。今私がジョルノを愛しているという想いは本物なのだ。この気持ちを消さないでほしい。

伝票を持って立ち上がる。さよならといいながら最後に顔を見ておこうと振り向いた瞬間視界が揺れた。ゴールド・エクスペリエンスの拳が私の腹にめり込むのが見えた。



「嫌です。僕は別れません」



そのまま立ち上がったジョルノの腕に抱きとめられる。傍からみれば貧血で倒れた恋人を抱き留める恋人にでも見えるのだろうか。視界が薄れていく。ぼんやりとする視界の中で泣きそうな顔のジョルノが見えた。



「貴女が何と言おうと別れません。貴女のことが好きなんですナマエ。愛してます。僕から離れるというならどんな手段を用いても引き留めます。絶対に、離すものかッ!」



薄暗い光を目に宿しそう苦しそうにいうジョルノの姿が視界に映る。私はゆっくりと目を閉じた。

ああ、ほら。やっぱり君はDIOに似ているよ。私の意思を考慮せず力で蹂躙しようとするところがそっくりだ。これからジョルノは私を精神的にも肉体的にも留めようとするのだろうけどその度に私はDIOとの共通点を見つけて彼を嫌いになってしまうのだろう。それがすごく嫌だ。

暗闇の中ジョルノとの思い出がよみがえる。それを振り返りながら今はまだジョルノのことが好きなことに安心する。ああ、どうせなら今このまま時が止まってしまえばいいのに。そうしたらずっとジョルノのことを好きなまま幸せでいられるのに。

もう、世界で独りぼっちになるのは嫌なんだ。君を嫌いになってまた愛を失う前に私の世界が終わってほしいと、そう思った。


ーendー

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