ジョジョ(短編)

□その輝きに魅入られた
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自分の名前がブローノ・ブチャラティと聞いた時は驚いた。私はその名前を知っていた。ジョジョの奇妙な冒険という書物の5部に出てくる登場人物の一人の名前とまったく同じ名前だったからだ。

やがて私は自分の取り巻く環境から自分がブローノ・ブチャラティ本人であると確信した。私は彼のような人生を歩むことになるのだろう。

ブローノ・ブチャラティはマフィアのボスに吐き気を催す邪悪を感じ奴を倒すために奮闘しそして命を落とす。

自分の未来が若くして死ぬものだとわかっていても私はそんなに嫌な気がしなかった。なぜならブチャラティは命を失う代わりに黄金の精神を次世代に託すからだ。ジョルノ・ジョバーナ、DIOの息子であるにもかかわらず崇高な精神と意思をその身に宿す少年、その彼がギャング・スターになる夢をブチャラティは見た。

私もその夢を見たいと思った。自分の仲間が死ぬ未来は変えたいがジョルノが頂点に立つために自分の命が尽きてしまっても構わなかった。

注意を促していたため父は麻薬取引の現場に立ち会わなかったが私は組織へと入団した。この組織に私の存在意義がある。原作通りスタンド使いになりフーゴ、アバッキオ、ミスタ、ナランチャ、私多くの仲間を得た。

そして涙目のルカを殺った犯人を捜すように組織から指示を受けて、ジョルノを見つけた。たまらなく嬉しかった。やっと自分の生まれた理由に会えたのだから。ギャング・スターになりたいというジョルノを連れ帰って組織に紹介し、ポルポが死にその遺産を手に入れそしてトリッシュの護衛任務が始まった。

暗殺チームは同じボスを倒す者と考えれば同志であるが彼らの思考と目的はジョルノの作る組織と合わないだろう。ここで排除すべきだ。

多くの危機を乗り越えそして私達はボスの待ち構える建物にたどり着いた。ここにボスがいる。

今更私はボスの正体を知っているから危険を犯す必要なんてないのだろうけれどそれでも私はこの場面を一切変える気はない。原作通り再現するつもりだ。私の実力ではセッコに勝てない。だからこのままにするつもりだ。

トリッシュには痛い思いをさせることになり少し申し訳ないが君の命と未来は必ず守るからどうか許してほしい。護衛は一人とトリッシュのみ上陸を許すというボスの指示にジョルノはスクッと立ち上がった。これも原作通りだな。



「ブチャラティ、彼女の護衛ならぼくが志願します。ぼくが彼女を塔の上まで連れていきます」



そういうジョルノは汗一つかかずはっきりした口調で言葉を口にし強いまなざしを送ってきた。思わず口元に笑みが浮かぶ。ジョルノはブレない。自分の夢と理想をかなえるためにこれからも突き進むだろう。そんな彼に出会えた私は本当に幸運だ。彼の歩む道の礎になれることを心から誇りに思う。

そんなジョルノに突っかかるアバッキオを諌め護衛は自分が行くという。これは誰にも譲れない私の役目だ。



「当然行くのは私だ。トリッシュ、命令通り二人だけで行こう」


「ブチャラティ、貴女死ぬつもりですか?」



ジョルノの言葉に驚き思わずジョルノを凝視するとジョルノも私を見つめ返してきた。それは確信があるかのような口調だった。ジョルノの言葉に皆がはぁ?と声をあげ彼を注視した。その中でジョルノの視線だけが私に向かい注がれる。ジョルノの視線は相変わらず力強くそして鋭い。こんな時まで有能なんかでなくてもいいのにと思わず苦笑が漏れた。皆の声が聞こえてくる。



「何言ってやがるんだジョルノ」


「そうだよ!なんでブチャラティが死なないといけないんだよ?」


「確かにまだ暗殺チームのメンバーは残っているだろうがこの塔はもうボスのテリトリーだろう。むしろ気を付けるべきは残される僕らではないか?」


「おいジョルノ、あんまり皆を不要に動揺させるようなこというんじゃねえよ」


「ブチャラティ、貴女からは覚悟を感じます。それはただ任務に赴くためのものではありません。何かをやり遂げる覚悟です。尋常ならない気負い方です。それは何ですか?この先に何か危険が待ち受けていてそれが何かあなたは知っているのですか?」



ジョルノの言葉にみんなの視線も私に集まる。それはジョルノの言葉を疑心に思う気持ちと不安に思う気持ちが混ぜ合わせたような表情だった。皆ここまでジョルノ活躍を知っている。ジョルノは正解を導き出す強い力を持っているということを皆わかっている。だから皆ジョルノの言葉を嘘だと思う気持ちと真実かもしれないという気持ちが混ざり合ってこんな感情の持っていき場がない顔をしているのだろう。本当に君は人の心を掴むのがうまいな。さすが未来の帝王様だ。

だけれどもその答えを正直にいうわけにはできない。避けられない道というのはどうやったってあるのだ。ブローノ・ブチャラティはここで死ななければならない。そしてわずかばかりの期間、無敵にして果敢ない力を手に入れなければならない。その力が彼のいく末を阻む敵を穿つのだから。

だから私はいつものように笑みを浮かべる。仲間が安心できるように、リーダーとして寛容を示せるようなそんな穏やかで雄大な笑みを顔に張り付けた。



「いや?そんなつもりはないよ。ただ少し緊張していたのかもしれないな。なんていったってあのボスに近づくわけだし敵だってまだ残っている。自身を緩めるわけにはいかない」


「ブチャラティ、ですが、」


「ああジョルノ、そのてんとう虫のブローチをくれないかな。お護りなんだろ?そのブローチ」


「…ええ、そうです。てんとう虫はお天とう様の虫です。幸運を呼びます」



そいういとジョルノはドクンと脈打つてんとう虫のブローチを私にくれた。これがボスを突き止める発信源になるのだろう。

手の中のてんとう虫を見てふと思う。こんなものがなくても君の人生は世界に祝福されているよ。頑張ってね。応援しているよ。



「ブチャラティ死なないでください」



船を降りる瞬間そういうジョルノに笑いかける。ごめん、嘘をつくことを許してください。その黄金を目に焼き付ける。やがて聴覚色彩と失っていくこの身体がその色を覚えてられるように。

トリッシュの手を引いて船を降りる。ああ、ちゃんと戻ってくるよ。君の敵を排除する最後の手助けができるように。

心残りは君の想像した世界を見れないことだけだ。



〜その輝きに魅入られた〜


(トリッシュを胸に抱き聞こえてくる足音を聞きながら私の世界は失われた)


ーendー

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