ジョジョ(短編)

□君の涙に虜になる
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突然だが私は泣いている子が大好きだ。泣くであって啼くではない。そんな卑猥な意味じゃないよ?ただ涙を流している子が好きだという話だ。

まあそういうと今度は私にドS疑惑が生じることだろうがそういうわけでもない。蝶の仮面を被ってボンテージを着て鞭を扱いながらハイヒールでグリグリするみたいなハードプレイをしたことなんてないです。興味はあるけどしたことはないです。まだ私は清らかなままです。

さてそれでなんで私が泣いている子が好きかというと単純に綺麗だからだ。

頬を赤く染め潤んだ瞳から嗚咽とともにこぼれ落ちる涙、これほど美しいものなど他にはあるまい。

特に女の子の涙は本当に美しい。私が初めてトキメキを覚えたのはあれは中学生の頃だった。忘れ物をした私が教室に取りに戻ると教室の隅で1人の女の子が泣いていた。クラスメイトの子だった。

その子は私の存在に気がつくとビクリと身体を震わせそしてゆっくり涙に濡れた顔をあげた。キレイだった。夕焼けが染み込む教室で涙がキラキラ反射してまるでそこだけ1枚の絵画になったような美しさがあった。

そのままふらふらと引き寄せられるようにその子に近付いていけばその子はわっと泣き出し私に抱きついた。そして私の腕の中でわんわん子供のように泣きじゃくった。その時私はチラチラと腕の中に見えるその子の泣き顔にドキトギと心臓を高鳴らしていた。このせいで私は一瞬自分がこの女の子に恋に落ちたのかと随分悩んだのだがまあそれは杞憂だった。私はただ泣き顔にときめいていただけだった。

その子は友達と喧嘩してしまったらしい。私はあたふたしながらもその子を慰め泣き顔を満喫してたのだがふとその子が顔をあげぐしゃぐしゃになった顔で笑みを浮かべ“ありがとう ”と言ったときは魂が飛んでいくかと思った。あり得ない破壊力だった。我が人生に一片のくいなし。あの瞬間に死んでも私は未練なく死ねただろう。

そんなわけで私は泣き顔にときめくという特殊萌えポイントを得てしまったのだ。性癖とはいうな。もっと純粋なものです。

とはいえ自分でも普通の思考どころか他人にバレたら引かれるのはわかってたからこのことは隠していた。誰にも言わず時々遭遇する美しい泣き顔に胸きゅんする日々を送っていた。そうだったのだが運命の出会いは再び私に訪れた。理想の泣き顔が現れたのだ。



「うっ、くっ…」


「あの、大丈夫ですか露伴先生?」



そういうと公園のベンチの上で膝を折り曲げヒックと嗚咽を繰り返していた露伴先生がバッと顔を上げ僕は泣いてなんかいない!と叫んだ。いや泣いてるかどうかはまだ聞いてませんよ?完全に自爆してますな。まあそういうことで顔を上げた露伴先生は完全に泣いていた。泣き顔だった。私の萌えを撃ち抜く泣き顔だった。と、トレビアン!なんて美しい泣き顔だ!強がるところも素晴らしい!ああ!ダメだ!可愛い!抱き締めたい!


通りがかった公園で奇抜な服装と髪型を持つ見知った人物を見つけたのは偶然だった。

あそこにいるのは露伴先生だ。膝を抱えて何してるんだろあの人。普段恐ろしいくらい自信家なのに落ち込む姿とは珍しい。方っておいてもいいけど見てしまった以上声かけないで後でイチャモンつけられるのも嫌だし様子くらいは気にかけておくか。それにあの体勢ならひょっとすると泣いてるのかも知れないぞ?露伴先生の泣き顔なら眼福くらいには思えるかもしれないな、見ておくかと思って近づいた露伴先生は泣き声を漏らし顔を上げると涙に濡れた顔を晒した。衝撃だった。露伴先生が泣いてるのも意外だったしその泣き顔が美しかったことに度肝を抜かれた。今日という場に私が居合わせられたことを神に感謝したいね!

露伴先生に飛び掛かりたくなる衝動を抑え紳士につとめる。落ち着け私。泣いてる子に飛びかかるのはただの変態だ。私はもっと理知的な人間だろ?1度深呼吸をする。そうでもしないと息が荒くなってしまいそうたった。



「そうですか。でももしよろしければこのハンカチを使ってください。私のハンカチが露伴先生に使われたいと言ってるんです」


「‥ふん。そういうことなら使ってやってもかまわんぞ」



そういって露伴先生は私からハンカチを奪うとぐしゃぐしゃにしながら涙を拭った。私はハンカチになりたいなと邪なことを考えながら露伴先生の隣に腰かける。チラチラとハンカチの隙間から見える露伴先生の泣き顔も越なものでチラリズムもうまいなと思いながら私は口を開いた。



「もし何か話せることがありましたらお聞かせ願えませんか?私は露伴先生の話が聞きたいんです」


「‥康一くんがこなかった」



露伴先生が泣いているのを認めない以上慰めるのも難しいなと思いながら言葉を選ぶ。それが幸いしたのか露伴先生はポツリポツリと訳を話してくれた。



「僕の方が早く約束してたのにあの由花子とかいう女を優先したんだ。僕は親友なのに」


「それは酷いね」



そういいながらエグエグ泣く露伴先生に対して同情してるかのように同意する。内心はこの康一厨め、どんだけ康一のことが好きなんだホモなの?ボッチも行きすぎると人の嗜好を変えるのだな、である。

いやそりゃ友人よりは恋人を優先するだろう。世界の常識です。それが現実というものなのだよ。変な体験読んでリアリティーを追うんじゃなくて全うな世間一般の人付き合いを露伴先生は学んだ方がいいと思います。

さて、こうして露伴先生の泣いている理由を聞いてみたものだが私はぶっちっけそんなものに興味はない。私が興味あるのは常に人の泣き顔だけです。理由を聞いたのはさらにこの人を泣かせるためだ。人間という生き物は弱ってる時に優しい言葉をもらうとさらに涙腺が緩む。なのでこうして泣いている理由を聞きかけるべき優しい言葉を探しだしさらに泣かせてやるのだ。え、お前に人の心があるのかって?いいえ、もうとっくに悪魔に売り渡しました。

というわけで話を総合すると康一に構ってもらえなくて露伴先生は泣いてるのだ。この人は子供か。取り敢えずかけるべき言葉はきっとこれだ!



「大丈夫ですよ露伴先生。康一くんだって露伴先生のこと親友だと思ってますって」


「うそだ、ならどうして僕を優先してくれない」


「康一くんの彼女さんの由花子さんは気性が荒い方ですから優しい康一くんが由花子さんに何か言われたら断れないんですよ。由花子さんのせいです。それ以外に素敵でかっこよくて無敵の露伴先生との約束を優先できない理由はありません。康一くんは露伴先生のこと好きです」


「そ、そうか。そうだよな!康一くんが僕を嫌うわけはないよな!」



露伴先生は私の言葉を聞くとバァと表情を明るくし瞳から涙を溢れさせた。嬉し泣きという奴ですね。よっしゃー!ミッションコンプリートだぁ!

ふふふ、やっぱり人は傷付いてる時に嬉しい言葉をもらうと涙腺が弛んじゃうんだよね!私の持論は間違っていなかった!由花子に聞かれたら髪の毛が白くなるまでボコボコにされそうなことを言ってしまったけど後悔はない。この露伴先生の笑顔の泣き顔見れたのですべて報われるのだ。

露伴先生は私の渡したハンカチでごしごしと顔を拭くと顔をあげた。あ、ちょ、まだ拭かないで欲しかった。もうちょっと心の映像に記録していたかったです。



「君はナマエという名前だったよな。今まで特に興味はなかったが意外と君は良い奴だ!ハンカチをありがとう。洗濯して返すよ」


「あ、大丈夫ですそのままで。いえいえ、大したことではありませんでしたから」


「そうか。君のような人材とこれからを関係を築いていきたい。僕の友達にならないか?」



涙に濡れたハンカチを洗濯するなんて勿体ない!これは露伴先生の素晴らしき泣き顔を頂いた記念として永久保存します。帰りに何かケース買ってこよう。で、どうやら私は露伴先生の好感度を上げすぎたらしい。友達になろうといわれました。

このボッチと仲良くなっていいことあるか?と一瞬迷うが仲良くなったらまた先生の泣き顔を拝まさせてもらえるかもしれない!とめざましく頭が回る。そうだ、また露伴先生の泣いているところを見れるかもしれない!友達ということは何か露伴先生に泣くような出来事が起こったとき慰める相手として呼ばれるということだ!なんだめちゃくちゃおいしいじゃん!もちろんお友達になってください。



「そんな、光栄です。こちらこそよろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼む」



そういって露伴先生が差し出してきた手をがっしり握る。ニコニコと笑う露伴先生には申し訳ないが貴方の目の前に座ってる人間は貴方の不幸を望んでます。取り敢えず由花子には発破かけとこう。由花子と康一くんの仲がよくなるほど露伴先生が泣くだろうから。

私はにっこりと人の良い笑みを浮かべる。自分の欲望には忠実な私はそれから露伴先生の泣き顔を見るためだけに友人として着々と地位を築いていくのだがそれが別の方向に転ぶことになるとはこの時の私は知らなかった。



〜君の涙に虜になる〜



(ナマエ映画でも見に行こうじゃないか)


(これは人情ものの映画を選択して露伴先生を泣かせるチャンスだな!勿論行きます!)


ーendー

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