ジョジョ(短編)

□取りあえず愛の逃避行とでも呼びましょうか
1ページ/1ページ



「兄さん、ちょっと頼みがあるんだけどいいかい?」


「おう、なんだナマエ。お前が頼み事なんて珍しいじゃん」



そういって兄貴はニカッと暖かな笑みを浮かべる。我が兄ながらなかなかのイケメンスマイルだ。これでリーゼントでなければさらに私好みなのだがこれに関しては口をつぐむ。頼みごとをする身分で一戦やらかしたくない



「兄さんってなんかモノを直せる超能力持ってたよね。すたんど?であってるかな?」


「クレイジー・ダイヤモンドだな。ああ、あってるぜ。なんだ、なんか壊しちまったのか?」



私の言葉を聞いてしょうがない奴だなーと兄さんは笑う。失礼な奴だ、別に私の過失で壊したわけじゃないよ。ただ通り魔に遭ったんだよ。


夏休み、たまの帰省で我が家に帰ってきたのだが(私は他の町の学校に通っていて学生寮に入っている)私のいない間にこの生まれ故郷は色々大変だったらしい。なんでも死刑囚が闊歩したり私欲に走って民間人を襲う傍迷惑な奴がいたり爆弾魔が暗躍したり、この杜王町は危険があふれていた。私の祖父も警察官であったことから事件に巻き込まれて死んだ。とても悲しかった。

そして兄さんこと仗助もこの様々な事件に巻き込まれたらしい。本人曰くスタンドという超能力を持つ人間がその力を悪用してしまったためにこれらの事件が起こったらしく、また同じようにスタンドを持つ兄さんがそれらの悪人を倒すため尽力を注いだとのことだ。正直非現実すぎてついていけない。私は仗助の妹であるがスタンドというものは持ってないのでイマイチその超次元抗争の概要がつかめないのだ。まあ兄さんに限ってそんなへんな嘘をつくこともないだろうし実際に兄さんはいろんなものを直せるのだから疑う余地もない。まったく、それにしても我が故郷はいつの間にそんな危険地帯になってしまったのだろうか。私がこんな目にあったのもその名残か?ああ、腹が立つ



「まあ壊したというか、なんというか。確か兄さんのスタンドは物だけじゃなくて傷も治せるんだよね?」


「ああ、治せるけど、ってナマエ怪我したのか!?それならそうと早く言えよ!すぐに治してやる!念のため病院にも行こう!!」



兄さんは私が傷を治して欲しいというニュアンスのことをいうとすぐに真剣な表情に変わった。さっきのどこかからかうようなおちゃらけた空気はどこにもない。

兄さんはとても家族を大切にする。妹である私も大切にされている自覚はある。ちくしょう、イケメンだ。私に今まで一度も彼氏が出来ない原因は間違いなくこいつにあるよ。兄が格好良ぎるのも困ったもんだ。

さてそれで私が治してほしいものの話だが自分から兄に振っといてなんだけどいうのが恥ずかしい。でもこのままにもしておきたくないものだ。

うーんと考えながら兄の顔をみる。兄の顔は真剣そのものだ。ここからごまかすもの難しいな。兄に相談してしまった以上仕方ない、言い切ろう。



「あのさ、」


「ああ」


「処女膜って治せる?」


「は?」


「いや実は通り魔に合ってレイプされたんだけど処女膜って治せるのかなって」



そういった瞬間兄の表情を私は生涯忘れないだろう。3日徹夜でやったゲームのデータを母さんに消された時の表情よりそれは凄まじかった。

次の瞬間兄さんの絶叫があたりに響いたのだった。














その事件は私が杜王町に帰省してすぐに起こった。

久しぶりに会った地元の友達と遊びほうけて帰りが遅くなった時いきなり襲われたのだ。必死に逃げようとしたが体格差がありすぎて逃げれなかった。行為が終わった後逃げれたのは奇跡だったと思う。その男が『ああ、君が俺の運命の相手だったのか』と下半身丸出しのまま言った瞬間ぷっつんきて『ねえよタコ!女子高生捕まえていうセリフが運命とかセンスないんだよこの性犯罪者がッ!滅びよバルス!』って叫びながら渾身の一撃を股間に繰り出し奴が悶えている隙に逃げてきたのだ。私はやれば出来る子だったのだ。できれば貞操失う前に何とかなれてれば最高だったな。

まあそんなわけで変質者からの逃走には成功したわけなのだが肝心の処女は失ってしまった。女としてやはり初めては好きな人かイケメンでカッコいい人にドラマチックに奪われたいと思ってたのでこの事件は残念で仕方ない。どうにか処女膜だけはなんとかならなかなーと思って兄さんに相談したんだけどとんでもないことになってしまった。

兄さんはその犯人見つけ出してボコボコにして生まれたことを後悔させるくらい残虐に殺してやると息巻いてる。頭けなしたわけじゃないのにぷっつんしてるよあちゃー。

いやもういいよ。そりゃ犯人を裁けるに越したことないけど犯人がどこにいるなんてわからないし警察にいうにしても事件の詳細を言わないといけないんだろ?いや、さすがにそれは心理的ダメージが大きいといいますか赤の他人にそんなこといいたくないわ。世界のレイプ被害者の半数は訴えないといいますしもう早く忘れよ、といったんだけどどうやら人探しできるスタンド能力を持った人物が兄さんの知り合いにいるらしい。いやでも赤の他人に事の顛末を話すのもちょっと、といいたら私らの父さんらしい。わお

うちの家庭は複雑で父さんには別の結婚した家庭があって、なんていうかうちの家は父さんの愛人宅なんですよ。

まあ父さんなんてこの17年間全く会ってなかったしいないものとしてたからあまり気にならなかったけど、マジか。

私は父さんに会ったことない。兄さんが最近会うようになっていることは知っていたが私はないのだ。

自分の父親とのファーストコンタクトが自分を辱めた奴探してもらうためってどうよ?そんなこと父親に知られたくないわ。まあ兄に話してる私がいっても信憑性ないかもしれんけど。うーん、なんかヤダな。

でももう兄さんは父さんに話を通してしまったらしい。あ、そうですか。もうここまでくればヤケだ。いいよ、父さんに会ってついでにあのレイプ魔野郎を突き止めましょう

そんなわけでなんかSPW財団という私でも知ってるような超有名企業の主導のもと私たちの会談の場は整えられた。

こちら側からは私と仗助が、向こう側からは父さんともう一人なんか私らの甥にあたる人が来るらしい。

甥といっても私たちより年上で最強のスタンドも持っているしとても頼りになるらしい。もうなんでもいいよ。ばっちこーい!

そんなわけで兄さんと二人で会談の場に向かう。

そこには腰の低いおじいさんと背の高い帽子を被ったハンサムな青年が立っていた。



「君がナマエかの?わしがジョセフ・ジョースターじゃ。長い間すまなかった」



まず腰の低いおじいさんが口火を切る。名乗った名前とその優しげな雰囲気からこの人が自分の父親だとわかった。

でもまあ17年間会わなかった父親だし歳の差も父親というより祖父孫並みの年齢差なのだからあまり実感がない。この人とそういうことを及ぼうと思った母親を尊敬した。まあ父親のことはいい。別に大した問題ではない。

それよりも問題はもう一人の青年の方だ。ハンサムだから見惚れているわけではない。私はこの男を知っている。



「お前は」


「マジかよ」


「ナマエ、承太郎さんと知り合いなのか?」



二人の間に流れた空気を感じ取ったのか兄さんがそう聞いてくる。承太郎というのか。ああ、知っているよ兄さん。その通りだよ。

ある意味ここにきた目的は果たせたね。だけど来るんじゃなかったと心底後悔している。むこうも私が誰だか気づいたらしい。唇が同時に動いた。



「運命の君ッ!」


「私をレイプした下種野郎だよ」



そういうとともに承太郎とやらが私に飛びかかってきた。ギャー!!と悲鳴を上げ逃げようとするがその前に抱き込まれた。やっぱりこの体格差はきつい。くそ、放せぇーー!!



「会いたかった!俺は何度もお前を探したんだぞ?そうか、仗助の妹だったのか。こんなところで会えるとはついてるな」


「私にとってはアンラッキーだよ!兄さん助けてー!!」



兄さんは突然の出来事に茫然としてたが私の助けを求める声にはっとしすぐさま私を承太郎から救出するように動いた。



「承太郎さん!俺の妹に何するんですか放してください!」


「仗助、彼女は俺の運命の相手だ。いくらお前の頼みでも応えることはできない」


「承太郎何を言っておるんじゃ!お前には娘も嫁もいるじゃないか!」


「あいつとは別れる。俺にはわかる。こいつこそ俺の運命の相手だって」



そういって承太郎はうっとりとした表情で私を見つめてくる。イケメンにこんなにも情熱的に求められたことはないのでちょっとドキマギしてしまうがでも私は騙されないぞ!こいつ妻子がいやがったのに私に手を出したのか。最低だな。最もここにはもう一人妻子がいるのに別の女に手を出したどうしようもない男がいるんだけれども。なんだよ、ジョースター家には浮気したい衝動に駆られるDNAでも組み込まれてるんですか?まともな男が兄さんしかいない。兄さんは誠実な人間になってください。

兄さんが承太郎に飛びかかる。が、何かに弾かれたように吹き飛んだ。え、何が起こったの?よくわからんがスタンドか?超時空異次元対決が今私の目の前で起こってるのか?それちょっとみたいぞ



「げほっ、くそう」


「仗助お前のスタンドでは俺に勝てない」



ビシッと格好つけながら承太郎がちらりとこちらを見てくる。もしかして俺ってかっこいいだろ?ドヤァってつもりの顔ですかそれは?私ブラコンなので勿論マイナスです。この野郎!よくも私の仗助を!!

兄さんは承太郎さんに敵いそうにない。そういえば承太郎さんは世界最強のスタンドなんだって兄さん言ってたな。まじかどうしよう。誰も勝てないの?まいった詰んだ



「承太郎!そんなことはわしは認めんぞ!」


「別にじじいに認めてもらわなくても構わねえよ」


「わしの娘を不幸にはさせん!どんな手をつかっても助けてみせるぞ!!」



もうダメかもと諦めかけてた時に立ち上がったのは父さんだった。その姿にジーンとくるものがある。

ほとんど縁はなかったけど父さんは私を娘と思っていてくれてるのか。やばい、ちょっと泣きそうだ。これは嬉しい。マジ嬉しい。今更父親なんてなと思ってたけどやっぱり親って大切だね。うん、父さんに会えたのはよかった。このクズに再会してしまったのは最悪だったけど。

父さんの言葉に承太郎はふむと考え込む。それには何かしら思うところがあるらしい。いけそうか?なら離してくれ



「じじいに本気になられるのは厄介だな。地位も名誉も権力も持ってやがる」


「そうじゃ承太郎!わしの娘を下ろしなさい」


「なら逃げるか」


「は?」


「え?」


「え゛」



そう承太郎が言った瞬間視界が変わった。どこだよここと思ったら廊下だった。遠くの方に父さんと兄さんの声が聞こえる。



「あれ?承太郎さんとナマエは?」


「しまった!時を止められたのじゃ!追わねば!」



なんかよくわからんが承太郎は私を抱えながら走っている。どういう状況だこれ、と思うながら顔を上げると口元を吊りあげた承太郎と目が合った。



「お前といられるなら俺はどこまでも逃げてみせるぜ」



承太郎はイケメン顔でそういった。

いやそんなこと私は望んでませんが?取りあえずすべきことはわかったので息を吸い込んだ。



「助けてえええええええええッ!!!!」



私の叫び声が廊下に木霊した。なんでこうなったかはわからないが一つ自分を慰めるなら
せめて初めてがイケメンでよかったです。



〜取りあえず愛の逃避行とでも呼びましょうか〜


(ドラァーー!!!!俺の妹を返せぇぇぇーーー!!)


(兄さんヘルプミィィィィーーー!!!!)


(で、ナマエ。式は何処で挙げたいんだ?)


(承太郎は空気読めよ)


ーendー

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ