ジョジョ(短編)
□君の世界を僕だけにする
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自分が1世紀半ほど遡ったアメリカに生まれ落ちてしまった時の衝撃は今でも忘れられない。
純日本人であった自分が何故このような状態に陥ったかはわからないがただ自分が生前好んでした『ジョジョの奇妙な冒険』という物語の主人公の1人ジョナサン・ジョースター(ただし愛称がジョニィの方)に位置してることは何となく悟った。
物語の登場人物と同じ立ち位置の人生に生まれたとは何とも奇妙な気分ではあるが物語を知るとはつまり未来を知っているということと同義語なのであまり嫌な気分はしない。むしろ、未来を知っているという圧倒的アドバンテージに浮かれていた。
自分がジョニィになったのだと知った時まず始めにしたのはダニーへの干渉だ。
確か原作では白いネズミが横切ったことで兄が死んだ。明確には書かれていなかったが恐らくダニーだろう。
ダニーはケースに入れて閉じ込めた。可愛い私のペットだが兄の命には変えられない。
次にしたのはディエゴへの扱いだ。最高のゲス野郎なのは知っていたがどんなに叩いても這いやがって来てしまう奴だとも知っていたので恩を売る方が得だと判断した。
なので片田舎埋もれてる奴を見つけて自家の馬付きに取り立ててやった。
ディエゴは私に驚いて感謝した。
表面上だけの張り付けた笑みなのかもしれないが恩を売れて個人的には満足だ。それに乾いた笑みなのはお互い様だ。ディエゴのことはどんなことがあっても信用するわけにはいけなかった。
ディエゴと友好的な関係を築きながら兄の乗馬を見る日々を送った。
兄の乗馬テクニックは馬に関して無知な私から見ても素晴らしいものだった。
もうすぐ兄の大切な大会があると聞き私は父にコースと森の間に柵を作るように進言した。
森から動物が飛び出してきて万が一兄が怪我をするような事態になってしまっては大変だと。
兄を溺愛していた父は私の言葉に従い直ぐ様トラックと森の間に柵を作った。鼠一匹入ることの出来ないレース場ができた。私は満足した。
やがて大会の日程が近づき兄が黒い馬で練習するようになった。何も起こらなかった。私はとてもほっとした。
これで原作とは違う未来になった。原作とは違うということはここは基準世界ではないのかも知れないが私は聖人の死体など欲しくもないのでどうでも良かった。
兄の大会の日がやってきた。家族で応援に行った。
兄は他の出場者から頭一つ抜き出ており圧倒的だった。
1人先頭を走り抜ける兄、後を追う他の馬。
兄が勝った。そう思った時だった。
瞬間砂煙がトラックを舞った。
兄の姿が隠れたと思ったら次の瞬間別の選手がゴールした。兄は事故に遭ったのだ。
誰かが白いネズミが兄の乗っていた馬の前を横切ったのだと、そう言った。
家に帰ってダニーを探す。ダニーを入れていた檻の鍵は壊れていなかった。にも関わらずダニーはいなかった。
白いネズミはダニーだった。原作は変わらない、そう悟った。
父は荒れた。他の家族がなんと言おうと父は沈んでいた。父が愛していたのは兄だけだったのだ。
兄と変わるようにディエゴがジャッキーの世界で有名になっていった。
私は馬に乗る決意をした。
この世界には目に見えない運命のようなものがあるのかもしれない。なら、それに乗るのも1つの人生かもしれない。
長かった髪を切り落とし私は馬に乗った。
馬に乗ることは驚くほど身に馴染んだ。やはりジョニィ・ジョースターの肉体は馬に乗ることを運命付けられているのかもしれない。
大会ではディエゴと常に張り合った。
常に優秀な成績を残したが父にはやはり愛されなかった。
性別を知らないゴシップには王子と囃し立てられたが興味はなかった。ただ馬に乗ることが私の歩むべき道なのだと思った。
ディエゴとはよく会ったがその時ディエゴは財産目当てで老婆と結婚していたので私が生理的に奴を受け入れられなかった。
オマケにその老婆は咳が止まらなく指が腫れるらしい。どうみてもディエゴが殺害しようとしている。
話し掛けられることは多々あったがあまりの険悪感に私が奴を避けた。
これからのことを考えるなら情も持たせた方が得だと言うのにどうしても出来なかった。
嫌なものは嫌なのだ。私はディエゴと疎遠になった。
性別が違うかもしれないが私はジョニィ・ジョースターのような乱れた生活は送らなかった。
淑女としての教育を受けてきたこともあり無闇に性行為をすることに抵抗があった。
ジョニィ・ジョースターはその廃れた生活のせいで両足を失ったというのもあって私は清い生活を送った。
だけれど運命というものはやはり変えることが出来ないらしい。
ロンドンからレースの帰り道、乗っていた馬車が事故に合い私は下半身不随になった。
くしくもジョニィ・ジョースターと全く同じ症状だ。もう笑うしかない。私の下半身は動かなくなった。
馬に乗れない私に世間も家族も興味はなかった。1人病院で孤独な私に意外にも手を差しのべて来たのはディエゴだった。
ディエゴは私を哀れみ嘆きそして愛おしいと宣った。
ディエゴは私のことが好きだといった。それは孤独になるはずのジョニィ・ジョースターとは違う道筋だった。
だけど私はディエゴの手を取った。
自分がディエゴのことをどう思ってるのかわからなかった。わからなかったが私は寂しかった。
ジョニィ・ジョースターが独りになることは知っていた。だけれどもいざ自分がその立場に置かれるとそれは寂しいという言葉では言い表せないほどの虚無感があった。
地位も名誉も家族も友人も私は全て失ったのだ。
私は独りぼっちになったのだ。
ディエゴの腕の中で涙を流す。
今の私に他の選択肢はなかった。
だから選ばざるを得なかった選択肢だった。
だから私は知らない。
私を抱くディエゴの口元が歪に歪んでいたことに。
〜君の世界を僕だけにする〜
(それが全てだった)
〜end〜