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□ハッピーエンドに憧れて、バットエンドの夢を見る
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二限までの授業を終え、“放課後デート”と称して私は翔を四時間近くつれ回した。服屋に靴屋、本屋にコスメ屋。普通の男であれば絶対に嫌がるだろうデートを翔は付き合ってくれる。

「やっぱり翔のセンスは最高だね。店員さんも驚いてたし」

「俺様をなめるなよ!夏瑪のコーディネートならいくらでもしてやる!」

「調子乗るなちーび!」

「チビいうな!!」

仲のいい姉弟とでも思われているのか、振り向き向けられる目はどれも温かい。だけど本物の姉弟であったのなら私たちはこんなに仲はよくなかったんじゃないかと思う。他人だからこそ理解しあえて、解りあえることだってある。
自分の分だけでなく、私の買い物袋まで持ってくれている翔はまさに“いい彼氏”だ。「翔のやつ一口ちょうだい」と彼の飲むフラペチーノに手を伸ばし、かわりに私の飲んでたやつを翔の手に押し付ける。自分のとは違うほろ苦いフラペチーノに思わず顔をしかめてしまう。

「翔ってスイーツ男子の顔してやっぱり男だよね」

「なんだよその言い方!!」

「そのままっ」

ほろ苦いフラペチーノを返し、自分の甘いフラペチーノを喉に流し込んだ。やっぱり甘い飲み物はとことん甘いほうがいい。調和する苦味の旨さは私にはまだわからない。
翔は故郷の北海道からひとりでてきて大学の近くで暮らしている。だから電車に乗って帰る私とは逆方向だ。だけど翔は本当に身長以外は男気溢れる人だった。こうして遊んだとき、彼が必ず私を駅まで送ってくれるのは今に始まったことじゃない。

「じゃあな、気を付けて帰れよ」

「ありがとね」

「明日髪の毛染めてくれよな!」

「この夏瑪に任せなさい!」

トンッと胸をはって見せた私に翔は顔をひきつらせて「なんか不安になってきたぞ...おい」と笑い、私はその額を指で弾いた。その拍子に翔の頭に乗っている帽子がずれた。
翔は私が改札に入り、ホームに降りる階段に入るまで改札の外にいた。角をまがる直前、手を振れば“早くいけ”と彼の唇がいう。それに合わせるかのように電車の到着を知らせるアナウンスが鳴り響いた。

「うわ...と、ギリギリ」

目の前でしまっていくドアを視界の端にいれ、鞄のそこにすっかり入り込んでしまった携帯を手に取った。だけどそこにぶら下がってたはずの赤い音符のストラップが視界に揺れることはなく、取り出す度に感じた違和感はそれだったのかと気づく。だけどいつストラップがなくなったのかは思い出せなかった。学校についたときにはあったような、すでになかったような気もする。

ーー従姉妹の姉さんからもらったんだよ!女っぽいし、夏瑪にやるよ!ーー

押し付けるように渡されたそのストラップはたしかに女の子が好んで持ちそうなデザインだった。だけど私はそのストラップが私が好んで買う洋服屋の限定商品で、翔の従姉妹はそこの服の店を買わないことをしっている。

「明日学校で探さないと」

もしかしたら電車の中で落としているかもしれない。街中に落としたかもしれない。それでも、見つからなくても探さなくちゃと思った。素直じゃない翔がわざわざ自分の為に買ってくれたのだから、と物悲しくみえる携帯を握りしめた。
下車駅をつげるアナウンスに促されて電車を折りた私は改札の柱に背中を預けて立つ男に思わず目を奪われた。翔と彼にもらったストラップで埋め尽くされていたはずの頭は一気に太陽の光に眩まされ、何故か回れ右をしたがる足を必死に前に動かした。

「あ、あの!」

それが自分にかけられた言葉だとすぐにわかった。彼のいる改札に降りたのは私一人だけだった。
振り向いた私に駆け寄ってきた彼の頭にはまるで犬の耳が映えているようだった。呼び止めたのは自分だというのに目があったとたんに「えーと」「あの」と言葉を繰り返す彼に私は思わず吹き出してしまう。

「ええ!?俺、なんか可笑しいっ...ですか!?」

「違うんです!!その...可愛らしいなぁ、と」

「ええ!?それはそれでショック!!」

男はころころと表情をかえ、それからハッとした顔をすると手を自分の着込んでいるコートのポケットに手を入れた。そこから出てきたものに今度は私が目を開く番だった。

「それ!!」

「今朝降りるときに落としてったんだ。俺、いっつも君がこの駅で乗り降りするの知ってて、待ってれば会えると思ったんだ」

「待ってて...っ冷たい!!いつから待ってたの!?」

ストラップを持っていた手はまるで氷をさわっているのではないかと思えてしまうほど冷たかった。後先考えずにストラップごと彼の手を包んだ私は顔をあげ、赤い顔の彼と目があってようやく自分の起こした行動を理解した。翔に同じことをしてもけして走らないだろう心臓は痛いほど存在を主張し、「ごめんなさい!」と瞬時に距離を取ろうとした私の手は冷たい手に掴まれた。
男は私の手を離そうとはせず、深呼吸をすると赤褐色の瞳に私を映した。その瞳はやっぱり翔のまっすぐな瞳と重なった。

「俺、一十木音也っていいます!」

「...東条夏瑪、です...?」

「俺...、っ俺、君に一目惚れしました!!!」

俺と付き合ってください!!ーー
そういって笑顔で握られた両手を私はしばらく見つめ、それから思いきり叫んでいた。



(夢なら早く覚めてくれ。だってその真っ直ぐな瞳が眩しすぎるの)

御題処:『確かに恋だった 様』から選択式お題031-040(ハッピーエンドに憧れて、バットエンドの夢を見る)

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両手に花!!羨ましい!
翔ちゃんの北海道生まれ設定(笑)翔ちゃんの方言が聞きたいんです。切実に(笑)

Sunkus🎼
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