死の女神に愛されし黒天使の哀歌

□第四夜 入団者
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医務室は今日も今日とて大忙しのようだった。婦長は私たちを一目見て、「ごめんなさいね、今手がいっぱいいっぱいで、」というと救急箱をバズに渡して奥へと駆けていった。どうにも今日は奥に急患がいるらしい。様子を見るにエクソシストではなくファインダーだろうか。

(エクソシストが怪我したらもっと大騒ぎになる)

ファインダーの数は多い。それに彼らはすぐに入れ替わって、すぐに死んでいく。どうして彼らはファインダーになることを選ぶのだろうか。ーーその先にあるのは死でしかないというのに。

「見せろ」

「べつに怪我なんてしてないって」

「そっちじゃねぇよ」

はぁ、と神田が目の前でため息を吐いた。このやり取りを私たちは何度繰り返しただろうか。救急箱を持ってうろうろ、おろおろしているバズがいい加減目障りに思えてくる。

「だいたい女の身体を見せろだなんて無作法にもほどがある」

「そ、そうですよ神田さん!」

「バズは黙ってて」

「は、はい...、」

バズは端っこに放置されていた椅子を持ってくるとようやくそこに腰を落ち着かせた。神田は相変わらず私のことをにらんでいて、頑なに見せようとしない私に事を察したらしかった。

(見せられないよ、こんだけ広がってる凡人なんてさ)

べつにさっきまで痛くも痒くもなかったはずの凡人が少しだけ痛んだ気がした。どうせこれを見せたところで神田が悲しそうな顔をするだけだって私は知っている。そんな顔を見たいわけじゃない。そんな顔をさせたいわけじゃない。

ーー私のためにそんな顔をしないで

私は神田のそういうところが大嫌いだ。

「神田ーー」

『こいつアアアアアアアゥトオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

ヴィーン!!!と、悪魔の侵入を知らせる緊急ブザーが教団内に響き渡った。「うそぉ」と思わず私の口から漏れた時には神田が六幻を持って立ち上がっていて、何かを察知したらしい医療班の面々が窓から飛び降りようとした神田を止めようとして地面に尻餅をついている。

「大丈夫?」

「リッセルさん、」

「ごめんね、あいつ無駄に馬鹿力だから痛かったでしょ」

手を差し伸べて立ち上がった女の人は「いえ、大丈夫ですよ」も柔らかく笑った。その女の人は最近ファインダーの一人と結婚したとリナリーが騒いでいた人だったことを思い出した。ファインダーの彼はまだ生きているのだろうか。

「神田怪我してるのに馬鹿だなぁ。今エクソシスト他にいないの?」

「リナリーさんが先週お帰りになっていたかと」

「はぁ、やっぱりね」

よいしょ、と窓枠に登った私に気づいて飛んで来たのは婦長だった。「あなた!怪我は!!?」なんて叫ぶ婦長に少しだけ感謝して、
「大丈夫。いって来まーす」
と、遊びに行くかのような口調で告げてから窓枠を降り立った。
この世で怪我ほど私に無縁なものはない。だって私は

『セカンドエクソシスト』

なのだから。

「あ、いたいた」

やってるやってる、なんて思ったのは一瞬。死の女神を抜いて発動している二人のイノセンスに向けて発砲した。が、弾は光となって弾けて消えた。

「はい。そこまで」

《リッセルーーー!来てくれると思ってたよー!!》

《リッセル!!》

こっちを揃って睨む二人と、自分の横に飛んで来た神田のゴーレムからはコムイさんと科学班の面々が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。数にして八人ぐらいがいまコムイさんの近くにいるらしい。
アレンはしばらくこっちを睨んでから「あーーーーーー!!!!!!!」と大声で叫んだ。

「あ、貴女!!!あの時の!!!」

「すごいね。上まで自分で来たのかよ」

「な、なんでいるんですか!!」

「なんだって。私もエクソシストだから?」

ゴーレムから「ちょっとリッセル!連れて来たならちゃんと案内しないさい!!」とリナリーの声が聞こえたけれど、返事はしなかった。案内はした。一応。
こっちに向かうらしいリナリーには全員動いちゃダメよ、なんて言われたけど神田とアレンは聞く耳持たずで相変わらず鍔迫り合いをしている。仲間同士で争ってどうする、なんて声はかけない。どうせ今の不機嫌な神田に声をかけたところで巻き込まれるか無視されるかの二択でしかない。

「二人とも!いい加減にしなさい!リッセルも降りて来て!」

可愛らしく二人の頭をバインダーで引っ叩いたリナリーに呼ばれ、門番の頭から飛び降りれば門番から少しだけ文句を言われた。リナリーは私の頭もバインダーで叩こうとしたけれど、動きを読んで避けた。

「お帰りなさい。神田、リッセル」

「うん。ただいま」

お願いだからそのファインダー降ろしてくれないかな。
とはリナリーに言えなかった。少しだけ怒っているらしいリナリーは先を歩いた私の頭を一度だけバインダーで軽く叩くと今度こそ満足そうに笑った。
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