死の女神に愛されし黒天使の哀歌

□第一夜 白い少年
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何事も計画通りには進まない――

別に本物の銃口よろしくそっから煙なんてたたないけれど、役目の終えたそこに息を吹き掛けたくなる。たしかどこかの阿呆赤毛が
「クロス元帥みたいさぁ」
なんていっていたけれど、私の記憶が正しければあの男はクロス・マリアンに会ったことはないはずだ。
もちろん私の師匠はクロス元帥ではないけれど、いっそ遊び人元帥のほうがよかったとすら思える扱いを自分の師匠から受けた。生き方を教えてもらった恩は忘れないが殺されかけた恨みも私はけして忘れない。

「ざっと50?んー、盛りすぎかな」

ポケットから取り出した真っ赤な飴玉を口にいれたその瞬間に噛み砕いた。
さっきまではガーガーと響いていたノイズはすっかり消え失せ、ガリガリ、と私が飴を噛み砕く音と、建物風が自分の耳に響く。
すっかりガラクタになったデカブツが完全に消えるにはまだ少し時間がかかりそうだった。用なしになったリボルバー銃をホルスターに戻し、顔をあげた。隙間から見える空は皮肉にも私の"好きな"赤色で、思わず舌打ちが漏れた。

「…胸くそ悪い」

ため息が先だったか。爆発が先だったか。目の前で起こった爆発と現れた
“モノ”
をみた私の口からはその言葉が零れ落ちた。
ただでさえ駅にいこうとしていたところの腰を折られ、さらに邪魔がはいったこの状況をいったい誰に訴えろというのだろうか。臨時給金のでない職場と上司を恨めしく思った。
大通りに駆け寄り、
「なんだなんだ」
と集まる野次馬たちを掻き分けた。その目線の先には屋根が吹っ飛んだ家があり、隣接して立つ教会の屋根も大きく破壊されている。
さっきみえた影は間違いなく自分の獲物に間違いない。大方家の中で暴れて弾丸を乱射させたのだろう。

「仕事増やしてくれちゃってほんとにさぁ...、」

奴等の犯行は分かりやすく、恐ろしい。証拠は残るようで残らない。それでもって"悲劇"だけを残していく。

「どこにでもいるんだから、くそったれ!」

裏門に回った私に気づいた人間はいなかった。助走をつけることなく低い教会を囲う鉄冊を飛び越えた。
ビリ、と布の破ける音が聞こえたけどもう今更だった。私の団服はもう作りかえなければどうにももならないくらいにボロボロだ。取れかかっている裏に名前の刻まれたボタンを引っ張ると、たいした力を込めることなく取れた。
科学班の仕事を増やしてしまったことに多少の罪悪感を覚えるも、こればかりはどうしようもない。せめて背が少しでも伸びていればいいのに、と叶わぬ願いにため息がもれる。

「ん?」

振り返り、じっとこっちをみる男の子と目があった。男の子の小さなてには銀のボタンが握られていて、自分の団服をみればいつのまにか自分が契ったやつとはまた別の場所が一つ、ボタンがかけている。

「おーい、そんなところでなにしてんだーよ。いくよ?」

「...保護者か」

男の子の後ろに本当にいつのまにかたっていたホームレスチックなぐるぐる眼鏡の男が
「あンれ?そんなところでなーにしてんの?」
という。

「別に。それよりここはさっき爆発があった。その男の子つれてどっか行きなよ」

「ふーん。爆発、ね」

その眼鏡の奥が自分を見ているのかどうかなんてわからないのに、
ゾクリ、
と寒気が背筋を凍らせる。

(なんだこれ...、)

そもそも本当に何時のまに現れたのだろうか。

「ほら、いくぞ」

男は男の子の背中を押して私から遠ざかっていく。

はやく

はやく行け

頭の奥が警鐘をならす。

ーー行かせるな!!!

自分ではない声が叫んだ瞬間掴んだリボルバーから放たれた光は無様にも柵に当たって消えた。

「また、会おうっていった....、?」

不穏な男の声をかき消そうと振った頭がズキズキと私を締め付けた。
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