自由の翼

□生きる
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初めてここに足を運んだとき、僕は五本の白い花を買った。二回目に足を運んだときは七本の白い花を買った。三回目に足を運んだときには八本の白い花を買った。四回目に運んだとき、十本の白い花を買った。シガンシナ区とウォール・マリアが看破された三日後、五回目に足を運んだときは十二本の白い花を買った。その一年後、六回目に足を運んだとき、十三本の白い花を買った。
白は何色にも染まることの出来る自由な色だ。自由を勝ち取るために戦い死んだ勇敢な同期に手向けるのはそんな白い花が一番似合うと思う。

「残りは俺とルーシーだけだ」

「減ったね、僕らの期も」

僕の手が飛ばした白い花びらが風に乗って空にかけ登り見えなくなるのを見送ったテソは「そうだな」と囁いた。その肩と背中には自由の翼があり、僕の肩と背中にはユニコーンが誇らしげに威張っている。何一つ偉くない、そう悪態をついた日は何度あっただろうか。
憲兵団に入るには訓練兵卒業時に成績十位以内に入らなくてはいけない。もっとも安全な内地での仕事を選ぶ権利を得ることを世間は“すごい”と評す。だけど本当にそれはすごいことなのだろうか。壁の祖とに出て、かつては人類のものだったはずの世界を取り戻している調査兵団のほうがよっぽど“すごい”であり“立派”なのではないだろうか。

「そういえば、今日はパトルーシュカ来なかったんだね」

「あいつは団長と一緒だ」

「団長?あの分隊長じゃなくて?」

ほら金髪でとにかく大きい、と咄嗟に名前の出てこなかったパトルーシュカの恋人の名前をあげれてから、そういえば調査兵団の団長も金髪で背が高かったと思い出す。だけどテソには十分伝わったらしく、「ミケさんは書類に追われてる」と言った。
ミケ分隊長名前を出して顔をしかめるテソは見慣れたものだ。初めこそ「君の上司だろう」と宥めたものの、最近ではそれすらしない。まあ三年間以上思い続けていた相手を意図も簡単に奪われたのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
そうおもう一方でそれでも羨ましいとおもう自分もいる。僕が恋した女の子は二度目に僕が白い花を買った五日前に壁の外で亡くなった。テソを庇って死んだのだという。
罪悪感からか、テソはしばらく僕に会おうとしなかった。パトルーシュカは今にも死にそうな白い顔で僕を訪ねてきて、生還を喜んだ僕に「アイリスが死んだ」と言って泣き崩れた。それは彼らが調査兵団に入団して一年が経とうとしていた時だった。
その夜僕はシーナの宿場でパトルーシュカを抱いた。僕にとっても、パトルーシュカにとっても初めてだった行為は虚しさしか存在しなかった。

「行くなって言ったんだ」

「どこに」

「オルガの家だ。あいつ、オルガの家にいく団長に着いてったんだ」

僕の脳裏にアイリスが死んだと伝えに来たパトルーシュカが浮かんだ。今にも壊れそうな、否、壊れた彼女はみたくないと思った。
ここが壁の上で、少し前に出れば巨人の領地に落ちる場所だということも忘れて僕はテソの胸ぐらをつかんだ。テソは驚いた様子もなく茶色い瞳に僕を映す。

「どうしてもっと強く止めなかった!?あの子が、パトルーシュカがまた壊れたらどうするんだ!オルガとパトルーシュカが仲良かったことは知ってたはずだ!」

「ああ知ってた。あいつが自分を取り戻してから俺とよりもオルガといることが多かったからな」

「ならなおさーー」

「抱いたらあいつに情移りでもしたか?でも、残念だがもうミケさんのモンだせ?」

「パトルーシュカは大切な親友だ!!!」

さらにジャケットをひねりあげて僕の手を「冗談だ。そう熱くなるなよ」とテソは簡単に払い除けた。これが日頃の訓練の差か、と一位で訓練兵を卒業した自分を嘲笑った。

「欲しいものってのはこうも手に入らないんだな」

壁の外に足を投げ出し座ったテソの隣に腰を掛け、彼にならって空を見上げた。あの空はどこまで続いているのだろうか、いつか僕もその終わりを探しにいくことができるのだろうか。

「そうだね。欲しくもないものばっかりが手にはいる」

「それが生きてるってことだろ」

ああ、悲しかな、悲しかなーー
何処かの役者こぼれの棒読み台詞が頭をよぎった。
このまま死んでしまえば僕はこの世界のしがらみけらも、悲しみからも、すべてから解放されるのだろうか。だけどそうする勇気は臆病者の僕にはなかった。


(本当は同じ場所にいたいんだ)

☆★☆

どちらかというと氷点下世界。の番外編だったかもしれない。

ユンジェとパトルーシュカの間に恋愛感情は一切ありません。ただ傷を慰め合うためだけに...という感じ。一番やっちゃいけないやつですよねー。

壁の上のシーンはわりと好きです。この作品ならではの眺め、というか。いい眺めなんだろうなぁ、的なね。

テソとユンジェは親友です。だからこそなんでもズケズケいいます。だけどユンジェはパトルーシュカとのことは言えなかったんですね。ユンジェはテソの気持ちを知ってます。テソもユンジェがパトルーシュカを友達としか思ってないことを知ってます。だからこそ、ってのがあるのかなーと。
私は女の子なので男の子の友情はよくわからないけど、女の子の友情よりなんだか美しくみえる(笑)!!


Sunkus🐥

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