自由の翼

□愛の切り売りはじめました
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人間はいくつか顔を持つ。それは内面的なものであることもあるし、外見的な意味であることもある。
たとえばだけど、女の子は気の知れた友達の前と好きな人の前では違う姿を見せる。自覚してなくともそれもひとつの顔だ。本当は好きだけど、好きだからこそ意地悪してしまう男の子。これだってやっぱり立派な別の顔だ。
ーーまあ、そんな可愛らしいものならよかったんだけど
ため息をつき、兵士とかけたなれた姿をする自分を見下ろした。鍛えた身体のラインを上手く隠すようにデザインされたドレスに団長の腐ったまでの“兵団愛”を感じた。否、兵団ではなくこの世界への愛というべきなのだろうか。

「君が頼りだ。今回も頼むぞ」

なんて言われれば「嫌です」なんて言えるわけがない。それをわかって辛そうな顔をつくって団長はいうのだから本当に嫌みな男だ。
髪をいつものように適当に縛るのではなく綺麗に結い上げ、首には本来なら目にかかるはずのない輝く石の塊をつけた。
貴族の娘はよくこんな格好を毎日していられるものだ、と思った。そりゃあこんな重くて肩のこる格好をしていてら動きたくもなくなるだろう。豚のように彼らが太っていく理由がこの格好をするたびに理解できる。

「準備できたな」

「せめてノックして欲しいんだけど」

「開けっぱなしのドアにどうやってノックしろと」

「ドアがなければ壁を叩けばいいでしょう」

ため息をついたミケにつきたいのはこっちだよ、とは言わなかった。何となくではなく彼がため息を付きたい理由を私は理解できた。結局私とミケは同じ穴の狢。同じ立場に身をおいた哀れな道化だ。
団服ではなくスーツを着込んだミケは私を頭から足の先から眺め、何をするのかとみていれば「今回も化けたな」と鼻で笑った。

「どういたしまして」

「褒めてはない」

「私は褒め言葉として受け取ったの」

私と彼にこれといった会話は成り立たない。いつだってそうだ。そもそもこれから向かう場所を前に快活な会話なんてできるわけがない。
仲間が命をかけて人類のために壁の外にでているというのに私とミケはこれから人類がもっとも能無しとなれる場所に兵団のために資金集めにいく。もちろん大切な、なくてはならない仕事だ。そうだとわかっていても納得できない自分がいる。
ーー本当は貴族の豚に股を開くより私も巨人の肉を削ぎたい
こうしている間に仲間が、友達が、大切な人たちが死んでいるかもしれない。巨人の驚異を目の前に悲鳴をいげているかもしれない。そう思うと頭がいたくて仕方ない。
人類のため、なんて大層な理由とために戦っているわけではない。だけど守れたかも知れないものの死体を見るのだけはいやだった。

「嫌か」

「そう見える?」

「ああ」

馬車に乗り込み、私たちが交わした会話はそのひとつだけだった。馬車を降り、豚の集まる舞踏会会場に向かうときもミケは無言で私に腕を差し出した。一応エスコートはしてくれる気らしかった。
この大男にも、私にも。きらびやかな世界は似合わなすぎる。離れていくミケの背中は断然対の翼がはためく団服のほうが似合うと思った。

「ミケ!」

振り返ったミケに私は何を伝えたかったのか。名前を呼んでからふと気づいた。振り返ったミケはいつもにまして無表情で、「そんなんじゃよってくるものもよってこないよ」と彼のひげ面に手をそえた。
ーーそれなりにいい顔してるんだよなぁ
ミケのことを怖がる兵士は少なくない。なんといってもひげ面に無表情。さらには奇妙な癖がそのイメージをさらに強くしてしまう。なんだかもったいないと思った。

「笑顔、だよ」

「急にどうした」

「っあそこに可愛い令嬢がいるなぁ、と思っ...て、」

またしても指をさしてから“しまった”と思った。適当にさした令嬢が可愛いはずなんてなくて、豚を紐で縛ったかのような女にミケも私も笑うしかできなかった。
ーー今日はこんなんばかりだ
ぽす、と。文字にしたらそんな音がなるだろうか。ミケの大きな手が私の頭にのせられ、数回跳ねた。大丈夫だ、と。言われたような気がした。

「パトルーシュカこそ笑え」

「...は?」

「終わったら綺麗に上塗りしてやろう」

今度こそミケは笑っていた。意味深な言葉と中途半端な熱を残して私に背中を向けたミケの背中を睨むことしか私にはできなかった。バカ、と囁いた自分の唇は確実に弧を描いていた。



(そして今日も愛を売る。どうか安っぽい言葉に騙されて)

御題処:『確かに恋だった 様』から選択式お題441-450(愛の切り売りはじめました)

☆★☆

「ドアがなければ壁を叩けばいいでしょう」、この台詞。どこかできいたことないですか(笑)?
ただしくは「パンがなければケーキをたべればいいでしょ」です。マリー・アントワネット様(笑)(笑)あの人って本当に高飛車なお姫様だったんでしょうか。

ミケさん最後の一言はじみに考えた!!ちょっと匂わせる感が欲しかったんです。私にエロはかけません←

Sunkus🐥

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