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□ハッピーエンドに憧れて、バットエンドの夢を見る
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その人はいつも同じ時間、私と同じ駅で同じ車両に乗り込む。それに気づいたのは大学一年生という何故か輝いて聞こえる学年の終わる四ヶ月前だった。
私は生まれてこのかた、引っ越したことなんて一度もない。小中は地元の公立学校に、高校は電車を乗り継ぎ東京の公立学校に通っていた。だというのに、その人の存在に気づいたのはつい二週間前だった。
太陽に当たれば真っ赤に輝く髪に、いつも耳につけている赤いヘッドホン、背中に背負っているギター。一目見れば目に留まるというのに私は今の今まで彼にあったことはなかった。年の離れた先輩なのか、それとも最近引っ越してきたのか。二三個上の先輩でないことは部活の先輩が証明してくれている。
なにより、私はなんとなく彼は年が自分と近い気がしてならなかった。もちろんただの直感なわけだけど、私の直感は何かとよくあたる。

「げ、おまっ!!なんつー顔してんだよ」

「うるさいチビ助。少し黙っててようるさいなぁ」

「チビっていうなー!!あと二回もうるさいっていうな!失礼な奴だな!」

「人の顔見て“げ、”て一言目にいう方が失礼だとおもうけど」とチビ助、翔の顔をみずに言い捨てた私は抱えていたバックの中から化粧ポーチを取り出した。ファンデーションにチーク、アイシャドウに口紅。そこには私を変身させてくれる宝石が詰まっている。
ぼそっとなにかをぼやいて私前の席に腰かけた翔と私の目線は立っていても座っていてもかわらない。女として平均の私、男にしては小さい翔。互いにファッションに興味あり、お洒落が好きだったことで意気投合した私たちが学校で一緒にいないことは少ない。入学してからかれこれ七ヶ月、色恋沙汰の噂がたったのはずいぶん昔の話に思えてくる。

「で、何があったんだよ」

「何って」

「素っぴんだし、目ぇ腫れてるし」
 
「ようはぶっ細工ーっていいたいのね!!」

手を伸ばして翔のほっぺたを引っ張れば、見た目通り肌はすべすべで、そこらの女の子より翔のほうがいい肌を持っているのでは、と思えてしまう。むしろ彼を一目見た人は本当についているのか疑いたくなるのではないだろうか。もちろんそれは証明ずみなわけだけど。
翔がされるがままになり続けるわけはなく、振り払われた手で私は一度手放したファンデーションを手に取った。それはモデルの母を持つ翔からもらったまだ発売していない新作ものだ。

「取りためてたドラマ見てたのよ。最近レポート多かったでしょ?忙しくてみれてなかったから」

「徹夜したのか」

「まさか。夜更かしはしたけど、徹夜はしない。肌荒れちゃうし」

「だよな」

「今朝は寝坊したの。一本逃したら次の授業間に合わないから急いで出てきたの」

翔はよくも悪くも私を理解していると思う。好きなもの、嫌いなもの。自分の中で決めているルール、許せないこと。私が翔のことなら大抵知ってるといえるくらいに翔も私のことなら大抵しっている。だけど私たちは親友だ。それ以上でも、それ以下でもない。

「あ...、翔さ、髪の毛そろそろ染めないと」

「え、マジ?」

「根本の方黒いの見えてるよ」

いったいいくつ持っているのか、毎日被っているのにどこかしら違うデザインの帽子を脱いだ翔の頭に触れる。金髪の根本からほんの少し、彼の地毛である黒が見えている。
ふと、“あの人”の髪を思いだし、彼が太陽なら翔は光だと思った。それに二人の雰囲気はどことなく似ている。

「またやってあげるよ。そのかわり髪の毛アレンジ一週間分ね」

「対価がでけぇよ!」

ぐあ!と噛みついてきそうな勢いで声をあげた翔の口にポケットに入っていたあめ玉を投げ入れ、「放課後デートね」と教室に入ってきた先生を指差した。お互い初な関係じゃないくせに耳を赤くして前をむいた翔に“かーわいー”とかいたノートのはしを投げ飛ばした。
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